目を合わせるまでの距離

列のはじに、見覚えのない傘の柄、でも知っている立ち方が混じった。

背丈は中学の頃と同じより少し高い。

肩がすこし上がっていて、寒さか緊張か、どちらかが乗っている。

彼の声が受付の方から、断片で届く。

「……えっと、私立の……」

「はい、ありがとうございます」

胸の波紋が、ひとつ大きく広がりかける。

私は四つ数えようとして、数を落としかける。

天野さんが、箱と私のあいだに半歩だけ入って、ブルーテープを目印に床に貼った。

「ここから一列でお願いします」

丁寧な声色はそのまま、視線は床。

彼の肩の角度が、私の視界を静かに守ってくれる。

言葉にしない配慮は、音を立てない盾みたいだ。

私は活字に戻る。

「小麦・乳、含む。味、塩」

声はまだ出る。

出せる。