「こちらにお名前とご住所を――」

「三上さま、こちらの区画へ」

三上、という音が、背骨の途中に触れて止まった。

私の背中だけ空気が薄くなったみたいで、毛布の内側がきゅっと縮む。

あの春の廊下と、黒板の粉の匂いが一瞬にして現在形になる。

視線は勝手に床のテープを探した。

白い線は安全地帯。

そこに目を縫いとめたまま、私は指先で毛布の端をさぐる。

汗ばむのに、指は冷たい。

近くで係の人が「毛布一枚ずつです」と言い、銀色がふわりと開く音がする。

私は呼吸を四拍で揃えなおす。

四、止めて、四、吐く。名前はただの音。

そう言い聞かせても、音は名前の形で胸に残った。