父は半分眠っていて、懐中電灯を胸の上に置いたまま呼吸が深い。

遠くでラジオの天気予報が流れ、川の水位と、夜明けごろの雨脚の見込みが読み上げられる。

スマホがポケットの中で小さく震えた。

りこからのメッセージ。

「起きてた。無理しないで。目は合わせなくていいから、手を温めて」

私は「うん。できてる」とだけ返す。

送信の青い丸が消えるのを見届けてから、画面を伏せた。

雨はまだ、やまない。

けれど、胸の鼓動は、さっきほど乱暴じゃない。丸い光の境界が、今夜の私の輪郭だ。

そこに収まっていれば、大きな夜も少しだけ扱える。

私は非常口の緑を斜めに見て、目を閉じるでも、完全に開くでもないまぶたで、長い夜をやり過ごす準備をした。

どこか遠くで、またひとつ「ありがとう」が跳ねて、天井の高いところで静かにほどけた。