目を合わせるまでの距離

鏡は平気だ。

そこにいるのは私で、鏡は決して目をそらさない。

けれど、人の目は違う。

私の中の何かを試すみたいに、こちらを真っ直ぐに射抜いてくる気がする。

朝、洗面所で髪を結びながら、私は鏡の中の自分に練習する。

「おはよう」

声の高さ、口角の位置、まぶたの動き。

完璧にできても、玄関で父に会うと、視線は靴箱へ逃げた。

父は新聞をたたみ、「行ってらっしゃい」と言った。

通学路の角で、別の小学校から来た一年生たちとすれ違う。彼らの声はまっすぐだ。

横を向き、信号を数える。

赤、赤、赤、青。