目を合わせるまでの距離

非常用の小さな灯りが、時間差でいくつか点いた。

完全な暗闇ではない。

体育館全体が、薄い夜の水の中に沈みながら、底から少し光を受け取っている感じ。

天野さんはライトをほんの少し遠ざけ、私の丸との重なりは保ったまま、明るさを一段落とす。

「眩しかったら言って」

彼の声はいつも通り短い。

私は「…うん。ありがとう」と答えた。

言葉の小ささに自分で驚く。

驚いた直後、胸のどこかが軽くなる。

彼は「よかった」とだけ言い、立ち上がる前に床を指でとん、と二回叩いた。

目を上げなくても分かる合図。

足音が離れていく。

私は毛布の端を握り直し、さっき見つけた脈に指を戻す。

トン。トン。

四つで吐いて、また四つ。

丸い光は小さいのに、ここで息が通る。

母が小声で「大丈夫?」と聞く。

私はうなずく。