目を合わせるまでの距離

「それ」天野さんの声が、いつもより少しだけ明るくなる。

「そのリズムで四つ。跳ねるのを四つ数えたら、次の四つまでに息を吐く。しんどかったら二つでもいい」

私はうなずき、指先に集中する。

トン。トン。トン。トン。

四つ目の跳ねに合わせて、細く息を吐く。

吐ききれない前に、次のトンが来る。

間に合わない。

焦って、息が絡まる。

「重ねちゃっていい。トンの上に吐く息が重なっても大丈夫。合図にするだけだから」

私はもう一度。

トン、トン、トン、トン――ふう。

胸のざわめきが、わずかに浅くなる。

毛布の繊維が、さっきより滑らかに見える。

目に映る情報が、急に細かく戻ってくる。

私は二回、三回と繰り返す。

トンの間隔が、少しだけ広がった気がする。