目を合わせるまでの距離

「ここ、光、借りるね」

低い声が、丸い光の外側からそっと届いた。

次の瞬間、横から別の光が重なって、私の丸を少し広げる。

眩しくない。

必要な分だけ、境界線が太くなる。

声の主は、さっき仕分けを一緒にやった先輩――天野さんだった。

彼は自分のライトを床に置き、二つの丸が半分だけ重なるよう角度を合わせる。

私は顔を上げない。

上げるかわりに、重なった境界の柔らかさを目で追った。

彼は床を見る視線のまま、ゆっくりと言う。

「息、数えるのが難しかったら、脈を数えるのもありだよ。利き手じゃないほうの手首、親指側のへこみ。指でそっと触って、トン、トンって」