目を合わせるまでの距離

手が震えている。

四つ吸って――数が途中で崩れた。

四の次が分からない。

音が重なる。

どこかで子どもが泣いて、別の場所で「大丈夫、すぐ戻るから」と落ち着いた声がする。

私は膝の上の丸を固定し直す。

固定できたはずの丸が、呼吸に合わせて波打つ。

自分の息が、うまく掴めない。

指先がまた冷たくなり、毛布の布目がさっきより粗く感じる。

胸の中に広がる波紋が、大きくなりかけて、止め方が分からない。

頭のどこかが「数えて」と言うのに、数の梯子がどこにも見つからない。

昔、停電になった夜のことを思い出す。

小さかった私は泣いて、母が懐中電灯で天井に猫の形を作って見せてくれた。

あの時の猫は、輪郭があった。

今の私は、輪郭の外にいる。