目を合わせるまでの距離

ふいに、照明が一度だけ明るさを落とし、すぐ戻った。

ざわ…と、小さな波が体育館じゅうを走る。

係の先生がマイクで短く告げる。

「館内の電力が不安定です。お手元の懐中電灯をご確認ください」

母がポケットから電池を二本取り出し、私のパーカーの袋に押し込む。

「替え、ここね」

うなずく。

二度目の瞬きは、長かった。

白い天井が、音もなくゆっくり暗くなり、非常口の緑だけが残る。

暗闇は完全じゃないのに、胸は完全に反応した。

喉の奥がきゅっと狭くなり、心臓が速く、浅く、前のめりになる。

視界はあるのに、端がにじむ。

私は慌てて光の丸を濃くする。

膝に置いた懐中電灯を少し手前へ、角度を変えて反射を増やす。

丸はできるけれど、ぶれる。