彼は箱の縁を軽く叩き、次の手伝いへ歩いていった。

私は深く息を吐き、毛布の端をもう一度握り直す。

目は合わせられなかった。

それでも、逃げずに立っていられた。

遠くで名簿を読む声が再開し、体育館のどこかでビニールが擦れる音がする。

家族の区画へ戻る途中、私はもう一度だけ名札の文字を心の中でなぞった。

湊。

胸の水位が、さっきより静かに整っている。

長い夜はまだ続く。

けれど、たった今の声と、活字と、指先の温度が、ここに残っている。

明かりの下で、それを確かめるみたいに、私は四拍の呼吸をもう一度だけ丁寧に数えた。