目を合わせるまでの距離

仕分けが終わると、天野さんはダンボールのふたを手際よく畳み、腕章の下で名札を直した。

そこに小さく印字された文字

――「天野 湊」。

湊。

水門の「湊」。

水を受け止めて流れを整える字。

さっきからこの体育館で、溢れそうになるいろんなものを、静かに受け止めてくれている人に似合うと思った。

彼がふっと顔を上げる気配がして、私は咄嗟に視線を毛布の銀に落とす。

銀の皺に照明の光が千切れて揺れ、私の呼吸が細い波として映る。

「助かった。無理しないでね。ここ置いといてくれれば、俺が運ぶから」