目を合わせるまでの距離

「ここ、数だけでいいから教えてくれる?」

紙皿の束を抱えた天野さんが言う。

数えるなら、目を上げなくていい。

私は安堵し、十ずつ指で数えて束をそろえ、「五十」と渡す。

「ナイス」

短い褒め言葉が、濡れた空気の中で乾いた軽さを持って弾む。

入口のドアが開いて、夜気が流れ込み、濡れた床の匂いがまた新しくなる。

私は反射的に顔を上げかけ、慌てて視線を箱のラベルへ落とす。

目が合う直前の、ぴりっとした電気のような気配が皮膚を走る。