目を合わせるまでの距離

戻ってきた彼の指先は少し冷たそうで、箱を持ち直す手首の角度がほんの少しだけ丁寧になっていた。

「ごめん、続きいける?」

私はうなずき、テープの端を探す手を伸ばす。

粘着が指に貼りついて、うまくつまめない。

彼が無言でテープカッターを差し出す。

受け取る瞬間、指と指がかすかに触れた。

冷たい。

私の手だ。

彼は何も言わない。

ただ、次のラベルを待つ間にふっと長めの間を置く。

その数拍の静けさが、私の呼吸のための隙になって、胸の波紋の輪郭がやわらいでいく。

体育館の空気が、一瞬だけ柔らかくなる。