目を合わせるまでの距離

近くで子どもの泣き声が跳ねた。

濡れた靴下が嫌で、帰りたい、と小さな声が重なる。

天野さんは「ちょっと待って」と低く言い、保温シートとタオルをひとつずつ持ってそちらへ向かった。

私は手を止めずに、遠目にその場を見る。

彼はしゃがみ込み、視線の高さを子どもに合わせたまま、母親に替えの靴下の箱と、濡れた衣服の入れ物の場所を落ち着いた声で示している。

「ゆっくり、かかとから。冷える前に足ふこう」

言葉の速さを落とし、間(ま)を取る。