活字は視線を吸い込んで、そこから離さないでいてくれる。

すこしだけ安心する。

その時、横から落ち着いた声。

「ラベル、読んでくれる?」

私は振り向かない。

箱の角に視線を縫いとめたまま、小さくうなずいた。

「小麦・卵・乳、含む。味、コンソメ」

「OK、じゃあそれはこっち」

声はすぐに作業のリズムにのり、テープの音、ペットボトルの転がる音と混ざった。

目が合う気配が頭上をかすめるたび、私は呼吸を四拍で刻む。

四、止める、四、吐く。

指先は冷たい。

けれど、逃げずに立っていられる。

遠くの非常口ランプが薄く光って、銀色の毛布の表面に揺れる緑の小さな四角をつくっていた。