目を合わせるまでの距離

「水は一本ずつで回してください」

落ち着いた声が横からした。

濡れた前髪が額に貼りついた高校の先輩。

反射ベストの縁がジャージの肩で光る。

目が合いそうになり、私は箱のラベルへ視線を落とす。

テープカッターを差し出すと、先輩は「助かる」と短く言って、視線は箱のふた。

直接目を見なくても、仕事は進む。

雨音が一段強くなり、天井を叩く音が広がった。

私は四、八、十二、十六と心の中で数えながら、紙皿を必要な分だけ渡す。

波紋の輪郭が、作業のリズムに溶けていく。