父は黙ってテレビの音量を下げ、懐中電灯の場所を確認した。

「電池、替えておくか」

私はうなずき、引き出しから単三を取り出す。

防災袋の口を開けると、アルミの毛布がかさりと鳴った。

その音が、知らない体育館の夜をすこしだけ連想させる。

連想しただけ。

私は袋を閉じ、机に戻る。

宿題のページに線を引き、今日の出来事を少しだけ書く。

視線のことは、書かない。

書くと言葉がこぼれる気がするから。

スマホに通知。

大雨注意報。

夜は警報になるかもしれない。

母が「早めにお風呂」と言う。

うなずく。

窓の雨粒が線になり、音が家に近づいた。

雷はまだ遠い。

雨の音だけが、少しずつ近づいてくる。