目を合わせるまでの距離

その言葉を発したのは、同じクラスの男子 三上だった。

目を合わせる勇気なんて、どこにも落ちていなかった。

手のひらが急に冷たくなって、指先が白っぽく見えた。

チャイムが鳴る。

私は作品を抱えたまま、誰の目も見ないで席に戻った。

放課後、帰り道の桜並木はやわらかい色をしていたのに、どこにも色がないように思えた。

家に着いても、母には何も言わなかった。

口を開けば、音までこぼれてしまいそうで、黙って靴をそろえ、宿題のページだけを無言で開いた。

その夜、布団の中でその声だけが何度も再生され、まぶたの裏で黒板の白い粉が降り続けた。

眠れたのは、空が白むころだった。

とても静かに。

遠くで雨音。