目を合わせるまでの距離

作業は好きだ。

手順があって、順番が決まっていて、目を合わせなくても仕事が進むから。

先輩は離れた机で返本作業を続けている。

「終わったらここにも置いといて」と遠くから声。

私は手を挙げて合図を返す。

言葉にしないやり取りは、少しだけ安心だ。

糊の白い筋が、午後の光で細く光った。

貼り終えるころ、窓の雲はさらに厚くなっていた。

箱のふたを閉じる。

さっき言えた「ありがとう」が喉に温かい。

チャイムが鳴る。

私は扉を静かに引いた。

廊下には、雨になる前の匂いがうっすら漂っている。

胸の重さが、ほんの少しだけ薄くなる。