目を合わせるまでの距離

五時間目は図書の時間。

新刊案内の掲示を見ていると、図書委員の先輩が近づいた。

女子だ。

ほっとする。

「そのチラシ、掲示板に貼れる?」

私は「はい」と答え、画鋲の箱を受け取る。

そこへ、保健委員の男子が通りかかった。

「プリント、落ちたよ」

床を指さす指先が視界に入る。

ありがとう、と言えた。

けれど目は、指先の先を越えられない。

りこが小さく笑って「十分」とだけ言った。

私はチラシの端をそろえ、画鋲の頭を一つずつ指で押した。

掲示板の前は静かで、時計だけが秒を刻んでいた。

画鋲の箱は意外と重い。

私は深呼吸して、チラシの角を机の端で軽く押し、折れを直す。