目を合わせるまでの距離

眉間の影が合図みたいに近づき、私は自分の意思で視線をそっと上げる。

ほんの一瞬、やさしく、唇が触れた。

音のしない、きれいな点。

押さない。

重ねない。

離れる準備が入ったままのキス。

私は反射的に胸が跳ねるのを感じ、でも、丸は必要なかった。

「……大丈夫?」

湊さんが、言葉を軽く置く。

「うん」

私はうなずく。

声は小さいけれど、私のものだった。

手首にトン、トンと自分で触れる。

リズムは乱れていない。

ノートを取り出し、短く記す。

「合図:指一本→呼吸→短いキス/きもち:びり→あたたか」

紙の上で、今日の行に小さな星がひとつ灯る。