「ここから、ゆっくりでいい」

「うん。ゆっくり」

私はノートを閉じ、パーカーに戻す。

手を伸ばすかわりに、指一本だけ上げる。

深呼吸の合図。彼は同じように指を上げて、すぐ下ろす。

最後の大玉が夜空でほどけ、川面に色の破片を落とす。

私は自分の意思で目を上げ、十秒より短いけれど、自然な長さで視線を重ねる。

世界は急に広くならない。

でも、広げる方向は選べる。

選ぶのはわたし。

花火の残光が消えても、丸い光は胸の中に残る。

トン、トン。

四つ吸って、四つ止めて、四つ吐く。

私はうなずき、帰り道の端を選んで歩き出した。

隣には、追いかけてこない距離のまま、一緒に行く人がいる。