目を合わせるまでの距離

「……できた」

言ってみる。

声は、花火の音より小さいけれど、ちゃんと私のもの。

湊さんが、少しだけ口角を上げた気配がする。

追いかけてこない距離のまま、言葉が落ちる。

「……君といるとね、息が静かになる。急がなくて大丈夫。よかったら、このまま、同じ歩幅で――隣にいさせてくれたら、うれしい」

胸の内側に、丸い光がもう一つひらいた。

私はうなずき、自分で視線を上げる。

今度は影を経由しないで、目に触れる。

「まだ、ときどきこわい。けど、その歩幅なら安心する。わたしも、あなたの隣で、ゆっくり同じ景色を見ていたい。」


言葉にした瞬間、世界が大きく変わるわけじゃない。

けれど、今夜の空の丸は、はっきり私の輪郭の外まで広がった。