目を合わせるまでの距離



――口の中のミネラルウォーター。

輪郭が戻る。

私は四つ吸って、四つ止めて、四つ吐く。

「裏に回る?」

湊さんが低く聞く。

「……たいじょうぶ。三秒なら、いける」

私は自分で選び、“名前で呼ぶ”を一本だけ試す。

「……天野さん」

いち、に、さん。

眉間の影。

私は自分の意思で視線を下ろす。

「丸」は言わずに済んだ。

「ナイス」

彼は短く言い、人の流れの端へ自然に私を誘導する。

追いかけない距離。

呼吸が、また一本通る。