***
記録によれば、共鳴の竜気を持つ巫女は百年ぶりだという。
帝や竜と共鳴し、相乗効果で互いの力を高められる能力であるらしい。
触れ合いが多いほど、そして相手を思う気持ちが強いほど効果が高まる。
だから、その身に皓月の子を宿している玉蘭はいま、竜気に満ち溢れている状態だ。
玉蘭の懐妊を知った時、皓月がきっと竜卜占は成功すると言ったのは、そういうことだったのだ。
そして時間の許す限り皓月が玉蘭のそばにいたのも、共鳴で竜気を高めるためだった。
つまり玉蘭の竜気がほとんどないと言われていたのは、共鳴という能力の特殊性ゆえだったことになる。
共鳴する相手がいなければ、竜気はとても弱い。
あらためて玉蘭が水晶に手をかざしてみたところ、まばゆいばかりに赤く輝いた。
いまはもう、玉蘭が寵愛される理由を疑う者はいない。
「なんだかまだ信じられません」
すべての真相を知った玉蘭は、夢を見ているような心地がした。
しかし皓月の温もりが、これが夢ではないのだと教えてくれる。
「ずっと私の隣にいてほしい」
玉蘭は、喜びに胸を震わせて頷いた。
竜の姿は、後宮から遠く離れた高台からでも見えたという。
多くの国民がその姿を目撃したことにより、皓月はいまや国内外から竜の末裔であることを証明した皇帝として崇められている。
自分がその一端を担ったのだと思うと、玉蘭も誇らしい気持ちでいっぱいだ。
「あのふたりは、どうなったのでしょう?」
不思議なことに、竜卜占を行っていた同時刻に独房から芳夫人も忽然と姿を消したらしい。
「竜は嘘を嫌う。ふたりはいま竜のもとで修業しているのだろうな」
玉蘭は、ふたりの御霊が浄化されることをそっと祈った。
玉蘭は、皓月とともに暮らせる宮へと居を移した。
女官が増員されたが、最も近くでお世話を任されているのは秋香のままだ。
「竜気を養うためだ」
それを口実に、皓月はやたらと玉蘭に甘えてくる。
彼のこんな姿を知っているのは自分だけだと思うと、玉蘭の心は自然と温かくなる。
それがまた、ふたりの竜気を高めているのは間違いない。
「でも……この子が女の子だったら、どうなさるおつもりです?」
膨らんできたお腹を撫でながら、玉蘭は少し不安げに問う。
慣例では、世継ぎである男児を産まなければ正妃にはなれないはずだ。
皓月は玉蘭の手に己の大きな手を重ねる。
「娘なら、玉蘭に似た可愛らしい赤子が生まれるだろうな」
「そういうことを言っているのではありません!」
頬を膨らませる玉蘭の様子に、皓月は声を立てて笑う。
「私の妃は、玉蘭だけだ。愛してる」
「わたしも……お慕いしております」
まだ言い慣れなくて頬を真っ赤に染める玉蘭を、皓月はうれしそうに笑いながら抱きしめたのだった。
<完>
記録によれば、共鳴の竜気を持つ巫女は百年ぶりだという。
帝や竜と共鳴し、相乗効果で互いの力を高められる能力であるらしい。
触れ合いが多いほど、そして相手を思う気持ちが強いほど効果が高まる。
だから、その身に皓月の子を宿している玉蘭はいま、竜気に満ち溢れている状態だ。
玉蘭の懐妊を知った時、皓月がきっと竜卜占は成功すると言ったのは、そういうことだったのだ。
そして時間の許す限り皓月が玉蘭のそばにいたのも、共鳴で竜気を高めるためだった。
つまり玉蘭の竜気がほとんどないと言われていたのは、共鳴という能力の特殊性ゆえだったことになる。
共鳴する相手がいなければ、竜気はとても弱い。
あらためて玉蘭が水晶に手をかざしてみたところ、まばゆいばかりに赤く輝いた。
いまはもう、玉蘭が寵愛される理由を疑う者はいない。
「なんだかまだ信じられません」
すべての真相を知った玉蘭は、夢を見ているような心地がした。
しかし皓月の温もりが、これが夢ではないのだと教えてくれる。
「ずっと私の隣にいてほしい」
玉蘭は、喜びに胸を震わせて頷いた。
竜の姿は、後宮から遠く離れた高台からでも見えたという。
多くの国民がその姿を目撃したことにより、皓月はいまや国内外から竜の末裔であることを証明した皇帝として崇められている。
自分がその一端を担ったのだと思うと、玉蘭も誇らしい気持ちでいっぱいだ。
「あのふたりは、どうなったのでしょう?」
不思議なことに、竜卜占を行っていた同時刻に独房から芳夫人も忽然と姿を消したらしい。
「竜は嘘を嫌う。ふたりはいま竜のもとで修業しているのだろうな」
玉蘭は、ふたりの御霊が浄化されることをそっと祈った。
玉蘭は、皓月とともに暮らせる宮へと居を移した。
女官が増員されたが、最も近くでお世話を任されているのは秋香のままだ。
「竜気を養うためだ」
それを口実に、皓月はやたらと玉蘭に甘えてくる。
彼のこんな姿を知っているのは自分だけだと思うと、玉蘭の心は自然と温かくなる。
それがまた、ふたりの竜気を高めているのは間違いない。
「でも……この子が女の子だったら、どうなさるおつもりです?」
膨らんできたお腹を撫でながら、玉蘭は少し不安げに問う。
慣例では、世継ぎである男児を産まなければ正妃にはなれないはずだ。
皓月は玉蘭の手に己の大きな手を重ねる。
「娘なら、玉蘭に似た可愛らしい赤子が生まれるだろうな」
「そういうことを言っているのではありません!」
頬を膨らませる玉蘭の様子に、皓月は声を立てて笑う。
「私の妃は、玉蘭だけだ。愛してる」
「わたしも……お慕いしております」
まだ言い慣れなくて頬を真っ赤に染める玉蘭を、皓月はうれしそうに笑いながら抱きしめたのだった。
<完>
