大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

月曜日の夜。

帰り道の分岐点で別れたあとも、朱里の胸は落ち着かなかった。

(“隣にいたい”って……言っちゃったんだ、私)

嬉しいのに、実感が追いつかない。

不安と期待がぐちゃぐちゃに混ざって、身体の奥が熱い。

家に着いて、靴を脱いだ瞬間。

スマホが震えた。

《今日、ありがとう。
 嬉しかった。また話そう。
 おやすみ》

平田嵩より。

たったそれだけなのに、涙が出そうになった。

“急がない”と言ってくれたことが救いで、

“曖昧にしない”と示してくれたことが怖くて嬉しい。

朱里は返信画面を開いて、指を止める。

《こちらこそ、ありがとうございます。
 おやすみなさい》

送信。

短くて不器用。でも今の自分にはそれが精一杯だった。

その夜は眠れなかった。

翌朝(火曜日)

いつもより早く目が覚めた。

寝不足なのに眠気が来ない。

恋愛って、体力奪うのに覚醒力も上げるとか意味わからない。

会社に向かう途中、角を曲がった瞬間。

「……おはよう」

嵩が立っていた。

偶然か、それとも待っていてくれたのかは分からない。

「お、おはようございます……」
並んで歩く。

昨日より距離が近い。でも触れない。

触れたら、何かが決定的に変わってしまいそうで。

沈黙が落ちる。

言葉を探していたのは朱里だけではなかった。

「……無理させてない?」

嵩が不意に言った。

「え?」

「怖いまま立たせてるんじゃないかって。
 言葉にしたら、重くなるの分かってるから……それでも言ったけど」

その“ちゃんと考えてる”感じが、また心臓に悪い。

「無理は……してます。
 でも、無理してでも前に進みたい無理です」

言いながら、自分でも何を言ってるか分からなくなる。

嵩は小さく笑った。

「じゃあ……一緒に無理しようか。
 ちゃんと前向きな無理だけ」

その言い方が優しくて、泣きそうになる。

会社で
デスクに着くと、瑠奈が静かに近づいてきた。

昨日の“宣戦布告”の余韻がまだ空気に残っている。

「先輩、今日……目が違いますね」

「え?」

「覚悟してる目。
 負けませんけど、それはそれとして、ちゃんと素敵です」

言葉は穏やか。

でも、その芯は折れてない。

「進むって言うなら、私も止まるつもりはありませんから」

その瞳には泣き言なんてひとつもなかった。

負けたくないという想いも、ちゃんと恋だった。

朱里は小さく息を吸い、答えた。

「ありがとう。でも、もう逃げないから」

瑠奈はそれ以上何も言わず、微かに笑って去っていった。

少しだけ、敵じゃなくなった気がした。

同じ場所を好きになっただけの、ただの人間同士。

でも、その「ただ」がいちばん難しい。

そして、夕方

帰り支度をしていたら、嵩が近づいてきた。

「今日も、少し歩く?」

朱里は迷わず頷いた。

「……歩きます。逃げないって決めたので」

嵩の目が、微かに驚いて、すぐに柔らかくなった。

「そっか。なら、次は……もう少し先まで行こう」

今日は、昨日より一歩だけ遠くまで歩いた。

触れない距離のまま。

でも、もう手を伸ばせば届く場所にいた。