――――宴の日取りが近付く。鈴蘭と和臣との遭遇も予想される。
「結界の異能で、何かほかにもできないかな……」
現状できることは結界を張ることだ。
「どうした、牡丹」
居間でひとり考えあぐねていれば棕櫚と白鬼さんがやって来る。
「その……私も結界を張る以上に何かできないかと思って……」
「それだけでも充分だが……そうだな。結界と封印の異能は似ていると言う話を以前にもしたな」
「うん」
頷けば棕櫚と白鬼さんも腰掛け、棕櫚がテーブルの上の蜜柑を手に取る。
「これを……おーい、柘榴、来てくれ」
「はーい。あら、どうしたの?」
柘榴さんが来てくれれば、棕櫚が蜜柑を柘榴さんに手渡す。
「これに封をしてくれ。実践したいことがある」
「それはいいけれど……棕櫚さまも異能は使えるでしょうに」
確かにそうだ。あれ……?でもそう言われてみれば棕櫚は風も操っていなかったろうか。もしかして珍しい複数の異能持ちなのだろうか。
「俺のは強すぎて蜜柑が最強になりすぎる」
「あらまあ、確かにそうかも。それじゃ……【封】」
柘榴さんが蜜柑に封印を施す。
「それに反射を付けてくれ」
「ええ。【反射】」
反射……?
「これでこの蜜柑は封を破ろうとするものに牙を剥く」
どう言うことだろう?
「ほら」
いつの間にか白鬼さんの掌には折り紙で紙風船が作られている。早業……お兄ちゃんみたいだ。
「よし、これをだな」
棕櫚が蜜柑に向かってひょいっと投げれば、紙風船が蜜柑に弾かれたように舞い上がる。そしてふよふよと私の掌の上に降りてきた。
「その、これって……」
「封を破ろうとしたものをそのまま反射し追い返したんだ」
「ほかにも何倍かにして返す封をかけることもあるわね」
棕櫚の言葉に柘榴さんが補足してくれる。
「そ。これは封印が受け取った力を吸収して反射しているんだ。だから結界の異能にも同じことができるかもしれない」
「……っ!その、それは多分誰もやって来なかったから……」
「ならやってみようぜ。何も異能で攻撃することだけが戦えることじゃない。封印には封印の、結界には結界の戦い方がある」
そうして青霧家は戦ってきたのだもんね。
「ほら、牡丹」
「……うん!」
柘榴さんが封を解いた蜜柑を受け取り、紙風船を棕櫚に預ける。そして先日のように掌に力を込める。今までは蜜柑くらいが限界だったのに、今では蜜柑に合わせることになろうとは。
「……っ」
蜜柑の周りに結界が満ちる……いや、満ちすぎた?
「落ち着いて、制御して」
「白鬼さん……?」
白鬼さんが私の手首を握ってくれれば、どうしてか結界の異能が制御できるきがする。少しずつ結界の力を小さくして蜜柑を覆うようにかける。
「できた!」
「それでいい」
「ありがとう、白鬼さん」
「……いや」
白鬼さんは顔を背けると何だか照れたように黙ってしまったが。
「でもここからどうすれば」
「……」
困っていれば白鬼さんが蜜柑に手を添える。
「……俺の力を」
そう告げれば私の結界に白鬼さんの力が重なるのが分かった。どこか懐かしい……でもだからこそより順応し私の結界に力が蓄積されているのが分かる。不思議な感覚だ。
「これを、外に解き放てばいい」
「……けど……」
どこか心細いと言うか、心もとないと言うか。
「俺の力と共に戦うと思えばいい」
「……うん」
それなら。
紙風船がふわりとやって来る。白鬼さんの力と共に跳ね返す。
そしてその瞬間紙風船が弾かれたように舞い上がる。
「成功のようだ」
「……うん!」
私にもできた。私にも戦える力ができた。たとえまた和臣が襲ってきてもこれならきっと戦える。鈴蘭の悪意が襲っても私には棕櫚たちが付いている。
それは自信……と言うものだろうか。
「よくできた」
優しく髪を撫でてくれる白鬼さんの手はどこか懐かしい。
「その蜜柑はご褒美に食べな」
「うん、棕櫚」
結界を解いて口にした蜜柑は……何故かいつもよりも美味しかったように思える。

