――――その後、鈴蘭の存在は秘密裏に処理された。
「鈴蘭はもう地上になど這い上がって来られない地獄の底に堕ちたんだな」
そう語る春宮はどこか悲しそうでもあったが、既に割り切ったようにも見える。
「当然、魂の救済もなく呵責が果てるまで朽ち果てることもかなわん」
棕櫚は淡々と告げる。
「そんで、暁。地獄門から叩き出された茉莉花はどうなった」
「都から離れた離宮に送られるよ」
そう、茉莉花は帰ってきたのだ。ただし顔に大きな爛れが広がり、どんな医官も匙を投げた。
「ふうん?ま、それも罪だ」
その顔で周囲に嗤われながら生きていく。
それが地獄の課した罪。
「でも七欲は容赦したの?」
気になるのはそこである。
相手が子どもだったから?いや、鈴蘭が逃げた時は何百倍返しをしたのだっけ。
「アレがそんなタマか」
白鬼さんが吐き捨てる。
「そうそ。アイツはどこまでも陰湿なんだよ。生きている方が辛いと思わせる罪を背負わせるだけのものを与えた」
「それが一粒の飴か」
春宮の言う通り、地獄の鬼たちにどやされ脅えて戻ってきた茉莉花は世にも美味しい飴を一粒もらっただけと言い張ったそうだ。世にも美味しい時点で怪しすぎる罠である。
「そしてそれを管理するのも俺の役目だ」
「生き神さまだから……?」
「そうだよ、牡丹。あれらを管理するに必要なのは神の力だ。ちゃんと話していなくて済まなかった」
思えばその伏線はところかしこにあったわけだ。
「その、びっくりはしたけど……」
目の前にいるひと……いや夫の半分が神なのだ。でもそうではないかと言う予感はあったのだ。
「青霧の生き神は7歳の時にいきなり目覚める。私も最初はその半分を受け入れられるのか分からなかった。だが、棕櫚は棕櫚でどの棕櫚も私の大切な幼馴染みだ」
「うん、私にとっても棕櫚は棕櫚だよ」
神の片鱗も私にとってはずっと棕櫚だった。そのまっすぐさと強さに憧れた。
「それにね、私もちゃんと棕櫚に話してないことあるもの」
「え……何だ、それは!?」
狼狽える棕櫚が何だかおかしくて苦笑すれば、白鬼さんもクスクスと苦笑している。やはり通じ合うところは相変わらずだ。
「あのね、棕櫚。私は棕櫚と夫婦になれて本当に幸せなの。だから……大好きだよ」
「……ああ……俺も、愛してる」
棕櫚が私を抱き寄せる。その優しさと温もりはいつまでも変わらず私を支えてくれる。だから私も憧れるあなたの隣に立ちたいと思えるのだ。
そのためにはもっともっと、結界の練習もしてお料理も。これからも楽しみなことばかりだ。
――――その後、春宮はようやっと妃を迎えることになるのだが、それは妃が生き神とその伴侶の夫婦としての成長を見届けたからとも言われている。
【完】

