――――最期の神判が開く。その先には黄金郷が広がるがそこはどうしてか触れがたい何かがある。

「なぁに?黄金だわ!宝の山!」
鈴蘭が目を輝かせる。

『罪人め。天の宝を盗まんとするか』
重々しい声と共に鈴蘭が門の中へと引きずり込まれる。その瞬間鈴蘭は巨大な柱にくくりつけられる。

「何をするのよ!放しなさい!」
「それは無理な相談だ」
呆れたように棕櫚が漏らす。

「青霧棕櫚!どういうつもりよ!この私にこんな……」
「お前はやったことの報いを受けるんだ。七欲門から対価を払わずに逃げた」
「それはもう払わなくていいはずよ!」
「誰がそんなことを言った。七欲門の中で回収できないだけ。回収できないのなら別の方法を取るのみ。素直に対価を支払えばその分地獄でただ働きだ」
それも相当な罰に思えるが。

「だが七欲門がどこまでも陰湿なのが運の尽き。その罪は数十、数百倍に跳ね上がった」
「キッシシ」
七欲がほくそ笑む。

「だからお前は神に裁かれる。そうなりゃ……普通に地獄で服役なんて生易しいことにはならない。地獄も徹底的に罪を裁ける神の後押しを得るんだ」
「か……神?神だって美しい私をきっと気に入るわ!何なら神の伴侶にだって……」
「バカを言え。そんなことはあり得ない」
「どうしてそんなことが言えるの!?神でもないくせに!」
「神さ」
その場が静寂に包まれる。

「青霧の家は門を封じる家。封じるためには人間の身だけでは不可能。しかし完全なる神ならば地上に干渉し過ぎることはできない。故に……干渉できるよう半分人間の身体を持つ」
「まさか……」

「それを生き神と言う。つまり神の伴侶ならば牡丹、それ以外の神ならば俺のもうひとりの神の母、神の祖母やら母の兄弟姉妹。俺の妻に喧嘩を売ったお前など誰が娶る?」
『裁きを』
『我らが末子』
『人間の半身を得る稀有な子』
『その伴侶を苛めたと』
『さらにはその傍らまで』
いつの間にか鈴蘭の周りには巨大なひとかげがある。いや……神の影。

『罪深い』
『罪深い』
『罪深い罪深い罪深い』
「嫌ァ――――ッ!!?私は神にも愛される……っ」

『醜い娘だ』
その瞬間鈴蘭の肌がボロボロと崩れていき、ひび割れた無惨な表情を映す。

「わたし……こんなの私じゃない!違う違うヂガヴ……これが私……?本当の……そんなはずないわよ!!」

「忘れてしまったのか」
「お兄さま……?」
「お前はいつから顔まで変わってしまったんだ。そうか……それからか」
成長と共に美しくなったとは言えぬほどに、その美貌は兄すらも困惑させた。
あながち彼女の言う呪いとは顔がまるで変わってしまう呪い……のようにも思われたのかもしれない。

「さて、堕ちる時間だ」
「嫌よ、そんなの!私はまだまだ贅沢をして優雅に暮らすの!」
激しく抵抗する鈴蘭に拘束が緩む。

「また逃げればいいのよ!」
鈴蘭が門の外に手を伸ばす。

「そんなの、許さない!」
咄嗟に門の入り口に結界を展開する。

「ちょっと、何よこれ!出られないじゃない!」
「私はあなたを許さない!」

「何様よ!?牡丹のくせに!」
「あなただって……鈴蘭のくせに!」

「この私を呼び捨てに!?」
「罪人などそれで充分だ」
棕櫚が嗤う。

「私は無罪よ!」
「どの口が言うの!?あなたはお兄ちゃんを殺した!私の大切な片割れを奪ったの!」
そう叫べば、白鬼さんの手が私の手に重なる。

「もう役立たずなんて言わせない……これが私の力だから」
「ああ。お前がバカにしてきたものを見ろ!」

「うるさぁいっ!」
鈴蘭が結界から逃れようと激しく叩いてくる。

「この痛みを」
「思い知れ!」
バシンと弾かれた鈴蘭が吹っ飛ぶ。

『見事なり、花嫁よ』
『それがそなたの強さ』
『心の強さ』
荘厳な声が降り注ぐ。

「見たか?最高の嫁だろう。これが俺たちの力だ。封じろ!」
棕櫚が掌を掲げれば、上から押さえ付けるように鈴蘭が沈んでいく。

「え……あ……イヤ……嫌よ……イヤァァァ――――ッ!!!」
鈴蘭が出口を封じられ、奈落の底へと堕ちて行く。

その瞬間鈴蘭は何を見たのか。私の隣ではらりと布の降りる音がした。