――――暮無家は本家は直系断絶、当主の不祥事により取り潰しになり分家が新たに本家として任命された。

「これであの家も変わるのかな」
鈴蘭は尋問を受けながら収監されているとか。

元当主も投獄され、結界維持のために異能を使わされることになるそうだ。花については口伝不可の封をしてもらった。あれが後世に伝わることがないのは救いだし、被害に遭った一門のひとびとも解放されると言う。

「それでも、それだけでも良かった。お兄ちゃん……もうあれで苦しむひとはいないんだよ」
お兄ちゃんの命を奪った一翼。悪意はそれだけではなかったけれど。

「牡丹」
聞こえるはずのない声が聞こえてくる。顔を上げればそこにはお兄ちゃんの姿がある。

「牡丹、会いたかった」
穏やかに笑むその表情は同じだが、違う。

「また会いに来てくれたの?あなたは誰?」
そう問えば、兄の形をしたそれは固まる。

あの時のような門じゃない。いや、門はあるが白く無機質な空間でしかない。

「私のために、お兄ちゃんの姿を見せてくれているの?」
「……」
「ありがとう。優しいんだね」
「……」

「でも大丈夫。お兄ちゃんはいつも私の側にいてくれるから」
「……知っていたのか」
「最初は何だか懐かしく感じただけだったけど、今はちゃんと分かるよ」

「……」
「でもどうしてお兄ちゃんは……」

「願うのならば、祈るのならば、我が主の耳に届く」
「……生き神さま?」
「お前たち人間が忘れないのであれば、自ずと進むべき道を示す。あの方はそう言う存在だ」
そう言うも彼はすうっと消えていく。何だったのだろう。

「牡丹!」
その時鋭い声が響きハッと目を開ける。

「棕櫚?」
私、夢を見ていたの?

「何を見た」
「え……お兄ちゃん」
「何っ」
棕櫚が驚愕している。

「牡丹は何も望んではいない」
その時白鬼さんの姿が現れる。

「七欲門が望むだろうと勝手に見せただけのこと」
「何てはた迷惑な」
棕櫚ははあと息を吐く。

「七欲門ってあの……?お兄ちゃんの姿を真似た人以外何もいなかったしなかった」
「あれはその中にそのものの欲しいものを出現させるんだ。死んだ人間など望んでいたら大変なことになっていた」
「……その、お兄ちゃんを?望まないけど」
ちらりと白鬼さんを見る。

「おい、何で白鬼を見る」
「……何となく」

「……ふうん?まあ何とかなったのならいい」
「うん。けど七欲門って夢の中に現れるの?人の姿も取っていた」

「いや……夢の中なら夢幻門だ。しかし七欲が強引に空間を繋いだんだろうさ。夢幻門に怒られるからよほどのことじゃないと繋げられないはずだ」

「……でも私が七欲門の中にいるってどうして分かったの?」

「門が開けば俺が分かる。それが俺の役目だからな。しかし……何故現れた」

「うーん……寂しかったからとか」
あの空間は何もなくて寂しそうだった。

「そんな平和的な理由ならいいが、アレは時折何をするか分からない」

「主よ、また現れたらどうする」
「七欲門は同じ人間を二度と招き入れることはできない。俺は開閉できる立場だから何度も対峙することはあるがな。一度牡丹を引き込んだ以上、七欲門は牡丹を引き入れない」
それならどうして今……?そうも思えてしまう。そしてそれなら前回であったあそこは七欲門ではなかった。あそこも夢幻門と言うものなのだろうか?

「……それならいい。明日は宮廷に行くのだろう。ゆっくりと休め」
そう言って白鬼さんが手渡してくれたものに驚く。

「……お兄ちゃんの紙風船」
破れたところは継ぎ接ぎで糊付けされていて、しっかりと膨らんでいる。

「勝手に触って悪かった。だが……いつまでも潰れたままだったから」
「そんなこと……っ!直してくれたんだよね。ありがとう!」
「……いや」
布面の下では顔を赤らめていそうだ。どうしてか分かるのだ。