異能殺しに嫁ぎます



――――宴の場と言うのはほぼ初めてで、勝手が分からない。

「安心しな。春宮の目の前で陰口を叩く度胸のあるやつはなかなかいないぞ」
棕櫚がにこりと微笑む。
「そうだな。宴には余興が付き物だが、自ら生け贄に志願するものはそう多くない」
春宮がこちらを振り向きニカリと嗤う。

「悪趣味な余興だ」
「人聞きの悪い。私の趣味ではない」
「知ってる」

「お前はまた人をからかって……。しかし棕櫚、お前が縁談を本当に受け入れるとは思わなかった」
春宮が盃を差し出せば、それに棕櫚が酒を注ぐ。

「だが気に入る理由も分かる」
「だろう?だがやらないぞ、暁」

「そのようなことはしない。私にだってなあ」
「そうだがお前はまだ独り身だったな」
「それを言うな」
「ふふっ」
やっぱり随分と仲がよさそうだ。

「牡丹、驚いたか?暁は俺と幼馴染みなんだ」
「幼馴染み!?」
年齢は同じくらいに見えるし、春宮の遊び相手として育ったのならそれもなくはないのか。

「そうだな……」
春宮はまるで懐かしむように頷く。

「しかし……今度は失踪しなかったのだから成功と言うことか」
「おい、その話は」
棕櫚が春宮を止めようとする。

「ちゃんと話していないのか?彼女にはその資格があるからこそ娶ると決めたのだろう」
「……」

「棕櫚?」
「……分かった。この後話すよ」

「なら、控えの間を出そう。お前たちは先に退出していい」
「いいのかよ。帝は俺らの婚姻を祝してとか言っていたが」

「ほんのひとつの建前だ。ほかにも宴を催す理由はたくさんある」
「なら分かった。牡丹、慣れない場で疲れたろう?一旦退出しよう」
「う……うん」
確かにそれによる気疲れもあるのだろう。

――――私たちは春宮に用意してもらった控え室に移動する。その、最中だった。

「あの女が私の髪飾りを取ったの!」
突然の子どもの声には覚えがあった。

「……内親王」
棕櫚は春宮とは親しげだったけど、茉莉花内親王とはそれほど親しくない様子だ。

「本当だよ!だってなくなってたんだもの!私のお気に入りなのに!」
茉莉花内親王が侍女たちを引っ張り私に指を指してくる。

「絶対にあの女が盗ったの!悪い女だって聞いたもん!」
何と言う言い掛かりだ。鈴蘭に利用されて脅えていたと言うのに、本人がいないところではその笠を着ようとする。もしかしたら春宮のあの塩対応はこう言うところ故だったのだろうか。

「……ひどい言い掛かりだな。行こう、構うことはない」
「……棕櫚、いいの?」
「後で暁にチクればいい」
「それは最強なのでは……」
帝の跡取りと鈴蘭の笠を着る内親王。周囲がどちらをとるかは明白である。

「待ちなさい!この泥棒!」
茉莉花内親王が侍女が制止する腕を 振り切りこちらにかけてくる。

「……仕方がない」
棕櫚は刀ではなく掌を茉莉花内親王に向ける。棕櫚だけではなく布面の柘榴さんたちまで。

「ひ……っ」
茉莉花内親王は底知れぬ恐怖を抱いたのかピクンと立ち止まる。

「知っているか?俺たちが封じる門にはこう言うものがある。【地獄門】。その名の通り地獄への門。お前のような嘘つきは地獄から鬼が出てきて連れていくんだ」
その瞬間、白鬼さんがこれ見よがしに前に出る。

「わ……私は帝の娘!そんなのお父さまが追い払ってくれるもん!」
「はっ。何を言っている。地獄の長は閻魔大王。閻魔大王は帝すらも裁く存在。つまり帝よりも偉いんだ。そんなものは意味がない」
何処までも権力にすがるところは姉妹そっくりだ。

「嘘つきは地獄門に引きずり込まれる。今ここで、封を解いてやったらどうなるかな?」
「ひっ」
脅えると言うことは確実に嘘をついている。いや、それに違いないのだけど。

ふるふると震える茉莉花内親王は侍女たちに連れられていく。私たちは内親王から解放され無事に控え室にやって来た。

「さて……まずは何から話そうか」
棕櫚がポツリポツリと口を開く。

「俺たち青霧の使命は門を封じることだとは話したな」
「うん」

「それこそが青霧に嫁いだ花嫁たちの失踪に絡んでくる」
「どういうこと……?」

「俺たちが封じる門は5つある。ひとつは百鬼門、先程の地獄門。神判門は……勝手に開くことはないからいいとして、ほかにも夢幻門と七欲門。この中で一番厄介なのは七欲門だ」
「七つの欲の門?」
「そう。七つと名は付くが世の中のあらゆる欲望を七つに大別したに過ぎず、その門は足を踏み入れたもののあらゆる欲望を満たすんだ」
「あらゆる欲望を?もしかして花嫁たちが失踪したのも関わっているの?」

「……そうだ。牡丹も青霧に来て初めに布面を渡されたろう」
「うん」
「あれにはあらゆる守護の封の中に七欲門の誘惑から欲望を封じる効果もある。それがあれば七欲門が開いても惑わされることはない。しかしその欲望の門を一度でも見たいだの、満たしたい欲望があるなどで禁を破ったものたちがいた」

「それで……門の中に囚われた?」
「そう。それが失踪の真相だ。尤もしっかりと禁を守った花嫁は今も生きている」
柘榴さんは青霧の人間だけど、禊の時に助けてくれた女性たちの中には外から嫁いだ女性もいたのかもしれない。

「でも……囚われた花嫁たちは戻って来られないの?」
「戻れない」
「どうして……?」
「あらゆるものには代償がある。対価がある。七欲門のもたらす欲望はタダじゃない。ひとひとりのあらゆる欲望を満たす対価とは一生かかったとして返せぬものだ」
「そうか……自分で叶えられる欲望なら門の中に入らずとも自分で叶えればいいもの」

「そうだな。みながそのように思えれば良かったが、そうはいかないものだ。欲望を受け取った花嫁たちはその対価を払えず……地獄門に落ちていく」
「……地獄門」

「そう。地獄門に落ち死後も亡者として返すために刑に服すしかない。あの七欲門の行く先は地獄門。ひとは楽をして己の欲望を満たそうとしてはならないと言うことだ」
「……」

「真実を知り恐ろしいと思うか」
「……ううん、棕櫚たちがついてるもの。私もこの異能で棕櫚たちの力になりたい」
お兄ちゃんが守ってくれたこの力で、私を受け入れてくれた青霧のみんなのために。

「それを聞いて安心した」
そう言って棕櫚が私の髪を撫でる。ここに何ものにもかえがたい幸せがあるのなら、更なる欲望を望む理由など無い。

――――失踪した花嫁たちはどんな欲望を望んだのだろうか。今となっては知ることなどかなうまい。