この国には古来より異形が出る。外見は様々だが、それらはあやかしと呼ばれ、人々に害をなした。
 これの討伐を担っているのが、特殊な家系の異能者達だ。
 異形は異能者達にしか見えず、異能を用いた攻撃でのみ滅することができる。
 彼らはその特殊性から帝にも重宝されていた。
 薬師寺家もそのうちの一つだ。
 歴史ある名家として名を連ねていたが、その栄光も過去のものとなりつつあった。
 それを助けたのが鴇の実母の家らしい。
 しかし、実母は鴇が産んですぐに儚くなってしまった。
 物心つくまでは丁寧に育てられたと聞き及んでいるが、それも五歳頃までだ。
 七五三と称して連れられた異能測定で、鴇は異能なしの烙印を押されてしまう。
 その日から、鴇の地獄は始まった。
 父が新たに娶った継母からは蔑まれ、万葉が産まれる頃には自室が母屋から物置に変わっていた。
 息苦しい生活に疲弊し、夜中に家を抜け出したことで鴇の運命は変わり始める。
 大木の下で知り合った樹と夜ごとに語らい、親睦を深めたある日。
 異能者達を取り纏める月宮家から縁談の話が舞い込んできた。
 両親の喜びようは計り知れず、当主が訪れる日は万葉をこれでもかと飾り立てた。
 しかし、当主が求めていたのは鴇だ。
 薬師寺家に訪れた当主――樹の顔を見て、鴇は心臓が止まるかと思うほど驚いたことを、今でも昨日のことのように思い出せる。
 彼は月宮家へと迎え入れる準備もしていたが、あやかしとの大きな戦があったため先送りになってしまった。
 樹が戦から帰ってくるまでの辛抱。そう思っていた、はずだった。
 記憶を失ったと聞くまでは。

「お待たせいたしました」

 淹れ直したお茶を万葉の膳に置く。彼女は鼻を鳴らすだけで、何も言わなかった。
 父や義母、異母妹の食事が終わり、片付けが全て終わったのは日がとっぷりと暮れた頃だった。