大きなバルコニーから月を眺める。
 背中に室内から聞こえる楽しげな声を浴びながら、白い息を吐く。
 すると肩に短衣(ジャケット)が掛けられた。

「まだ夜は寒いな」
「はい」

 隣に立った樹へ鴇はおずおずと寄り添った。
 少し目を見開いた彼だったが、すぐに肩へ手を回し抱き寄せられる。
 心地のよい体温にすり寄ってしまう。

「樹様」
「どうした?」
「万葉と弥生はこれからどうなるのですか」
「ん? しっかりと罰を受けってもらうつもりだが、どうした?」
「いえ。……少し気になっただけです」
「そうか」

 二人の間に沈黙が落ちる。
 冷たい風が通り抜け、鴇の体がぶるりと震えた。

「お腹の子に障ってはいけない。戻ろうか」

 離れていく体温に寂しさを覚え、鴇は思わず手を伸ばしてしまった。
 ぱさりと肩から短衣(ジャケット)が落ちる。
 ぎゅうと抱きついた背中はとても温かい。

「鴇?」
「樹様。私、会えない間ずっと想っておりました」
「うん? 鴇。顔を見せてくれないか?」

 その場で樹が半回転したのか、すぐに体勢を変えられ、真っ正面から抱き合う形になってしまう。
 両腕で逃がさないとばかりに囲い込まれ、鴇の体から湯気が出てしまいそうだ。
 しかし、意を決した鴇は、そっと樹を見上げた。

「ずっと言いそびれていたのです。だから言わせてください」
「ん、なにかな」

 鴇の冷たい頬を撫でた樹は穏やかに微笑む。
 釣られて鴇も頬を緩ませた。

「樹様。おかえりなさいませ」
「! あぁ。ただいま」

 再会の言葉とともに、二人の影が重なった。