早朝5時
いくら太陽に恵まれている九州地方であっても、4月は真夜中のように暗い
鬱蒼とした森の中に建つ2階建ての一軒家
ぽつりぽつりと窓が光り、黒い人影が忙しなく家の中を往来する
北谷八子は洗面台の前に立ち、黒いセーラー服に桃色のリボンを締め、髪を結う
つい2週間前に美容室で髪を切ったというのに、肩に触れる程度の黒髪が、背中に触れる程度の長さに伸びている
八子は身なりを整えると、自室に行き、鞄を取る
部屋は14畳の和室で、年頃の女の子の部屋と言えば遊び心がなく、殺風景としている
壁伝いに並ぶ家具と家具の合間にくすんだ青色のエレキ・ギターがある
ディアンジェリコ製のセミ・アコだ
八子は忘れ物がないか部屋を見渡す
ギターの前で視線が止まり手を伸ばすが、すぐに引っ込めた
八子は鞄を肩に掛け、部屋を出る
「いってきます」
玄関の扉を開くと、ビュッと冷たい風が頬をつねる
目の前にタクシーが停まっている
八子は扉が開くと乗り込んだ
「よろしくお願いします」
「あいよ」
扉が閉まり、タクシーは峠道を下りる
◇
東京から西に遠く離れた田舎町は、緩やかに年老いていった
町内を走る路線バスは廃線
運転免許を持てない子供達は、自転車か親の送迎かが交通手段だ
高校生になると10キロメートル以上の長距離通学となることもある
町の援助もあってか、自宅から最寄り駅までは、無償でタクシーの送迎となっている
本当は寮生活を送る選択肢もあった
しかし、八子は断った
介護疲れで病んだ母親を家に置くことは八子には難しい選択であったからだ
タクシーは鬼瀬駅の前に停まる
八子は運転手に礼を言って降り、駅のホームへ向かう
ホームには、複数の高校の生徒達が気動車を待っていた
丁度タイミングよく気動車がホームに停止する
八子は乗り込むとつり革を掴み、慌しく流れる車窓の景色を眺めた
森を抜けると住宅地が広がり、高層マンションや商業施設が見える
八子も物心がつく前にこの市街地のマンションで暮らしていた
「ねぇお父さんに会ったら写真撮ってもらって」
「えーお父さん絶対入ってくるしやだー」
「だってお母さんこれから仕事で見に行けないから」
スーツを着た女性とその娘であろうか
なにやら話し込んでいるのが聞こえてくる
八子は両親のどちらも来ないため、少し羨ましく感じていた
八子の両親はあの葬儀の後、離婚した
父親は家を出て母親と少女の二人暮らしになった
仲違いをしたわけではなく、父親はたまに家に来る
なので悲しさは一切なかった
今日の入学式に父親の来れない理由は不明だ
写真だけでも撮ってほしかったと思い、古国府駅で降りた
いくら太陽に恵まれている九州地方であっても、4月は真夜中のように暗い
鬱蒼とした森の中に建つ2階建ての一軒家
ぽつりぽつりと窓が光り、黒い人影が忙しなく家の中を往来する
北谷八子は洗面台の前に立ち、黒いセーラー服に桃色のリボンを締め、髪を結う
つい2週間前に美容室で髪を切ったというのに、肩に触れる程度の黒髪が、背中に触れる程度の長さに伸びている
八子は身なりを整えると、自室に行き、鞄を取る
部屋は14畳の和室で、年頃の女の子の部屋と言えば遊び心がなく、殺風景としている
壁伝いに並ぶ家具と家具の合間にくすんだ青色のエレキ・ギターがある
ディアンジェリコ製のセミ・アコだ
八子は忘れ物がないか部屋を見渡す
ギターの前で視線が止まり手を伸ばすが、すぐに引っ込めた
八子は鞄を肩に掛け、部屋を出る
「いってきます」
玄関の扉を開くと、ビュッと冷たい風が頬をつねる
目の前にタクシーが停まっている
八子は扉が開くと乗り込んだ
「よろしくお願いします」
「あいよ」
扉が閉まり、タクシーは峠道を下りる
◇
東京から西に遠く離れた田舎町は、緩やかに年老いていった
町内を走る路線バスは廃線
運転免許を持てない子供達は、自転車か親の送迎かが交通手段だ
高校生になると10キロメートル以上の長距離通学となることもある
町の援助もあってか、自宅から最寄り駅までは、無償でタクシーの送迎となっている
本当は寮生活を送る選択肢もあった
しかし、八子は断った
介護疲れで病んだ母親を家に置くことは八子には難しい選択であったからだ
タクシーは鬼瀬駅の前に停まる
八子は運転手に礼を言って降り、駅のホームへ向かう
ホームには、複数の高校の生徒達が気動車を待っていた
丁度タイミングよく気動車がホームに停止する
八子は乗り込むとつり革を掴み、慌しく流れる車窓の景色を眺めた
森を抜けると住宅地が広がり、高層マンションや商業施設が見える
八子も物心がつく前にこの市街地のマンションで暮らしていた
「ねぇお父さんに会ったら写真撮ってもらって」
「えーお父さん絶対入ってくるしやだー」
「だってお母さんこれから仕事で見に行けないから」
スーツを着た女性とその娘であろうか
なにやら話し込んでいるのが聞こえてくる
八子は両親のどちらも来ないため、少し羨ましく感じていた
八子の両親はあの葬儀の後、離婚した
父親は家を出て母親と少女の二人暮らしになった
仲違いをしたわけではなく、父親はたまに家に来る
なので悲しさは一切なかった
今日の入学式に父親の来れない理由は不明だ
写真だけでも撮ってほしかったと思い、古国府駅で降りた


