玄関を開けると、煮物の甘い匂いがまとわりついた。 「おかえり、彩花」 台所から母の声。 私は靴をそろえながら、返事を遅らせる。 家の温度はいつも通りなのに、胸の内側だけが半歩ずれている。 制服の肩が、やけに重かった。