家の門をくぐると、庭の桜の蕾が一輪だけ開いていた。

ほんの少しの桃色が、風に震えている。

ノートの最初のページを開く。

最初の線は、あの日の夕陽。

最後の線は、今日の春の白。

線は途切れない。

私は小さくつぶやく。

「大丈夫。ここから、また始めよう」

胸の灯は春の色で、静かに燃えていた。