玄関でカードを返し、静かなビルを出た。

夜の空気が、熱を吸っていく。

ガラスに映る自分は、少しだけ軽い顔をしていた。

扉の外で待っていた颯太が、スマホを掲げて見せる。

「歩く?」と短い文字。

私はうなずいた。

信号の青が滲み、足音が二つ、同じ速さで並ぶ。

吐く息は白い。

胸のざわめきは、まだ微かに残っていた。