あの時、私はまだキャバ嬢だった。
親が離婚して、母親と暮らしていたら、暴力を振るわれた。
12歳ぐらいのとき、児童養護施設に引き取られた。
辛かった。施設は悪い場所じゃなかったけど、学校でいじめられた。
「施設の子」「母親と同じことしそう」「巻き込まれる」
陰で悪口なんかじゃなかった。はっきりと目の前で言われた。
二十歳になって、バイトを始めても、いろいろなところで噂された。
だから、私を「人」として、「女」として、扱ってくれるのはキャバクラだけ。
お客さんも、キャバクラのオーナーさんも、同じキャバ嬢の友達も。
醜い男たちを相手に、優しくして惚れさせればいい。
なんて簡単な仕事なんだろう。
もともと、私は容姿に自信があった。それは母親似だ。
母親も私と同じキャバ嬢だった。嫌な男につかまって、妊娠して、捨てられた。
本当に悲しい人生だな。でも、許せない。
自分の「苦労」を私への暴力で発散するなんて。本当に人間じゃない。
それに比べたら、賢人くんはまだマシな方だ。
妻子持ちで、連絡も見てくれない時もあるけど、高いシャンパン入れてくれるし、稼ぎがいい。
しかも、顔もそこそこ悪くない。まぁ、最近の韓国アイドルに比べちゃアレだけど。
奥さんも昔は水商売をしていたみたいだ。写真を見てみたけど、華やかできれいな人だ。
でも、若い私には勝てない。
あの人は、今年で四十歳だ。すっごい年寄り。私は今年で三十歳の若手。
まぁ、だいたい、キャバ嬢って、三十を過ぎると飽きられるのだけど。