天才棋士との結婚――そして苦悩

 そして、すぐさまハワイで結婚式を挙げた。あまり大事にはしたくないので、主に私の親族、勇人君の親族、そしてその友達だ。

 挨拶に伺った際すぐに結婚の承諾は得られた。私の両親にも、渡部君の両親にも。
 どちらの両親にも喜ばれた。
 渡部君の両親には「こんな息子と結婚してくれてありがとう」と、感謝された。むしろ私が感謝したいところだ。

 勇人君の母親はもうなくなってしまっているらしい。
 彼が六歳の時に亡くなったと聞いている。
 どうやら将棋をやり始めた理由もそれに起因するらしい。

 母親が死んで悲しかった時に彼の友達が将棋を教えたことも関係すると。
 本当はその友達も結婚式場に呼びたかったらしいが、もうどこに行ったのかも分からなくなったとのことだ。

  そして結婚式当日。
 また、早速勇人君の父親に話しかけられた。
 内容はまた勇人君を盛らtぅてくれたことに対する感謝だ。
 まだ言い足りなかったらしい。



 「息子は本当に将棋しか興味がないような人間で、他の事には興味がないと思ってたのですけど、まさかあの子が妻をめとるなど。人生で孫が見られるわけがないと思ってたのですけど、どうやら見れそうですね。……おっと、これだと子供を産めと言っているみたいですね」

 そう言って笑う勇人君の父親の幹人さん。本当に気さくな人だ。もう既にこの人の事を好きになってきたかもしれない。
 勇人君に性格も似ている事だし。

 そして勇人君は私の両親と話している。
 一応両親にはあのことは言わないでほしいと頼んだけど、大丈夫かな……?
 そそくさと、勇人君と、お母さんのところに行く。

 「あら、葵。よくもまあこんないい人を連れてきて」

 私が行くと、お母さんは早速そう言った。一応結婚の挨拶にも行ったんだけど。
 幹人さんに続いて、まだ話したりないのだろうか。

 「本当に今日一緒にしゃべってみたら本当にいい人っ!! 本当我が娘ながら見る目があるわ」

 相変わらずお母さんテンション高い。この人は昔からテンションが異常に高い人だった。そう、そのテンションの高さで周りの人に苦笑いをさせるような人なのだ。
 そこがお母さんの良いところでもあり、悪いところでもある。
 そして今も、勇人君の顔を見ると、少し疲れ切っているようだ。

 「お母さん、勇人君がいい人なのはそうだけど、あまりテンション高く話さないでよ。何しろ会うのはまだ二回目なんだから」

 勇人君はどちらかと言えばテンションは高くない系、つまり、テンション高い系のお母さんとは普通に考えて相性最悪なのだ。

 「大丈夫だよ、いい人だし」
 「いや、気を使わなくてもいいから。しんどかったらしんどいですって正直に言うんだよ。分かった?」
 「ああ、分かった」
 そう、言った後、私はお父さんに話しかける。

 「もう、お母さんを止めるのがお父さんの仕事なのに」
 「どういう仕事だ。亜美は俺の言葉じゃ止まらないさ」

 ああ、そうか、お父さんいつもお母さんには苦労してるものね。

 そして、そのあと呼ばれ、私たちは諸々の情事を行う。それら全ては私には初めての事であり、また嬉しい事だった。
 ハワイという事もあり、日本とは少し違うやり方だが、そもそも私達は結婚式を行うのが初めてだ。どちらにしろ、やるべきことは何ら変わりがない。
 その結婚式で話してくれたお母さんの言葉、勇人君のお父さんの言葉。どれも心に刺さる言葉だっった。
 だが、その空気がある時に一変した。

 「そう言えば渡部君は知ってる?」

 私の高校同級生の山内美晴がマイクをもって話す。
 私は彼女に友人代表スピーチを頼んでいたのだ。

 「葵の秘密を」

 その瞬間会場の空気が冷たくなるのを、私は感じた。会場の目が私に一気に向き、私は「ひっ」という声を出してしまう。
 勇人君が、「大丈夫か?」と聞いてくるが、大丈夫なわけがない。
 まさか、あの事は言わないよね。
 言われたらすべてが台無しになってしまう。

 「あの子ね、実の父親を自分で殺してるの」

 ああもう、言ったらダメなことなのに。私の知られたくないか子なのに。
 何を言ってるの、美晴は。