「おはよう」
私はぱっと体を起こした渡部君に対してそう言う。
「ああ、おはよう」
彼も答えた。
明るい声で。
良かった。元気になってきている。
「今日はどこかに行く?」
「今日は、静かに過ごしたいな」
「そっか」
私たちはとりあえず家で簡易的な料理を造り、カードゲームを用意する。
彼は一人客を連れてきた。そこに来たのは羽田九段だ。
思ったよりもすごい人が来てびっくりした。
いや、そう言えば羽田さんと親交があるって言ってたっけ。
「さて、トランプなら君に勝てるのかな」
そう言ってニヤリとする羽田さん。
はたして私、ここにいていいのかな。
羽田九段と言えば初の七冠王を達成した人で、渡部君の前は羽田さんが時代の覇者だった。
この前渡部君に負けたとはいえ、今も十分に強い人のはずだ。
「君は葵さんと言ったかな? 本当に君がいてくれてよかったよ。最近の渡部君はおかしかったから」
「そうでしたか……」
「まあ、そんな彼に負けたんだけどね」
そう言った羽田さんは笑っていたが、私は笑えなかった。
そして、大富豪をすることとなったが、
私、この人たちと勝負になるの?
そう思うと少し怖くなる。何しろ、将棋のプロという事は思考のプロであるという事。
対して私は勉強なんてほとんどしてない高卒だ。
まあ、その点で言えば渡部君は確か中卒なのだけど……
そして大富豪の結果は、意外や意外。渡部君のぼろ負けだ。
意外にも渡部君は大富豪が意外とへただったのだ。
だから実質羽田さんとの一騎打ちになったわけだ。
羽田さんは将棋のプロらしく、丁寧に適所適所で、カードを使っているように見えた。
数戦して私が勝てたのは最初の戦いだけだった。
「僕……トランプ弱すぎるな」
そう、大富豪が終わった後、渡部君がぼやいた。
「でも、あの時二があったんだろ? だったら私が一を出した状況で出していれば、流されるからそのまま革命して、四を出せば勝ちだったんじゃないか? 三はもう消えているわけだし」
「いや、でもその時点で三がないなんて知らなかったし」
「いや、最初に山嵐で三枚消えているわけなんだから、そのあと、私が三を出した時点でなくなっているからね」
そう、感想戦? で盛り上がっている二人を見るとこちらまでなんだか楽しくなってくる。
最終的には覚醒したのだろうか、渡部君の三連続大富豪で試合は終わった。
そうして夜も近くなった時、羽田さんが、「ちょっと葵さんに言いたいことがある」と言って、私を呼び出した。
「葵さん。渡部君の事なんだが」
やっぱりその話か。
「君から見て渡部君はどう思う?」
「私から見てですか? ……色々と心配です」
渡部君はまだ回復しきっていない。今のままだと、いつかまた倒れる可能性もある。
私が今日渡部君の家に泊まったおかげで、若干は回復しただろうけど、それも一時的な物な可能性が高い。
予断は許さないと思う。
「そうか、彼はやっぱり将棋が楽しくないと?」
「……私から見て、将棋は責任感だけで、やってるものだと思います」
「そうか。何かあったら連絡して欲しい。私にできる事なら力を貸すから」
「……羽田さんにとって渡部君の何なのですか?」
ふと私は訊いた。その瞬間、変な質問をしてしまったかもしれないと、軽く後悔をする。
「将棋仲間というだけではない、彼は、私を抜いた天才だ。そんな彼を助けてあげたいと思う事の何が悪いか。……私は彼の苦しみはよくわかってるつもりだよ」
羽田さんも、渡部君のせいで忘れがちだが、天才と呼ばれる棋士だ。
天才同士、分かることがあるのだろう。
私はぱっと体を起こした渡部君に対してそう言う。
「ああ、おはよう」
彼も答えた。
明るい声で。
良かった。元気になってきている。
「今日はどこかに行く?」
「今日は、静かに過ごしたいな」
「そっか」
私たちはとりあえず家で簡易的な料理を造り、カードゲームを用意する。
彼は一人客を連れてきた。そこに来たのは羽田九段だ。
思ったよりもすごい人が来てびっくりした。
いや、そう言えば羽田さんと親交があるって言ってたっけ。
「さて、トランプなら君に勝てるのかな」
そう言ってニヤリとする羽田さん。
はたして私、ここにいていいのかな。
羽田九段と言えば初の七冠王を達成した人で、渡部君の前は羽田さんが時代の覇者だった。
この前渡部君に負けたとはいえ、今も十分に強い人のはずだ。
「君は葵さんと言ったかな? 本当に君がいてくれてよかったよ。最近の渡部君はおかしかったから」
「そうでしたか……」
「まあ、そんな彼に負けたんだけどね」
そう言った羽田さんは笑っていたが、私は笑えなかった。
そして、大富豪をすることとなったが、
私、この人たちと勝負になるの?
そう思うと少し怖くなる。何しろ、将棋のプロという事は思考のプロであるという事。
対して私は勉強なんてほとんどしてない高卒だ。
まあ、その点で言えば渡部君は確か中卒なのだけど……
そして大富豪の結果は、意外や意外。渡部君のぼろ負けだ。
意外にも渡部君は大富豪が意外とへただったのだ。
だから実質羽田さんとの一騎打ちになったわけだ。
羽田さんは将棋のプロらしく、丁寧に適所適所で、カードを使っているように見えた。
数戦して私が勝てたのは最初の戦いだけだった。
「僕……トランプ弱すぎるな」
そう、大富豪が終わった後、渡部君がぼやいた。
「でも、あの時二があったんだろ? だったら私が一を出した状況で出していれば、流されるからそのまま革命して、四を出せば勝ちだったんじゃないか? 三はもう消えているわけだし」
「いや、でもその時点で三がないなんて知らなかったし」
「いや、最初に山嵐で三枚消えているわけなんだから、そのあと、私が三を出した時点でなくなっているからね」
そう、感想戦? で盛り上がっている二人を見るとこちらまでなんだか楽しくなってくる。
最終的には覚醒したのだろうか、渡部君の三連続大富豪で試合は終わった。
そうして夜も近くなった時、羽田さんが、「ちょっと葵さんに言いたいことがある」と言って、私を呼び出した。
「葵さん。渡部君の事なんだが」
やっぱりその話か。
「君から見て渡部君はどう思う?」
「私から見てですか? ……色々と心配です」
渡部君はまだ回復しきっていない。今のままだと、いつかまた倒れる可能性もある。
私が今日渡部君の家に泊まったおかげで、若干は回復しただろうけど、それも一時的な物な可能性が高い。
予断は許さないと思う。
「そうか、彼はやっぱり将棋が楽しくないと?」
「……私から見て、将棋は責任感だけで、やってるものだと思います」
「そうか。何かあったら連絡して欲しい。私にできる事なら力を貸すから」
「……羽田さんにとって渡部君の何なのですか?」
ふと私は訊いた。その瞬間、変な質問をしてしまったかもしれないと、軽く後悔をする。
「将棋仲間というだけではない、彼は、私を抜いた天才だ。そんな彼を助けてあげたいと思う事の何が悪いか。……私は彼の苦しみはよくわかってるつもりだよ」
羽田さんも、渡部君のせいで忘れがちだが、天才と呼ばれる棋士だ。
天才同士、分かることがあるのだろう。


