「俺にとって将棋は人生だった。小学生の時に、雄太から将棋を教えてもらった時に、人生が変わった気がした。それくらい面白くてたまらなかった。そこから将棋にのめりだした。 俺は、気が付けば一日中将棋を指していた。棋書も毎日読んでいたし、プロの対局にもハマって行った。特に、羽田六冠の対局が本当に楽しかった。なんであんな細い攻めで敵陣を突破できるのだろうって考えながら対局を見ていた。もう毎日が幸せだった。そこから始めて試合に出た。小学生名人戦だ。どんな強敵が来るんだろうと、ビビりながらの挑戦だったが、案外楽に地区大会を突破出来た。逆に楽過ぎて、別の大会に来てしまっているのかと思った。だからこそ、少しだけ興ざめだった。そこから、奨励会に入った。もう、俺にかなうやつは奨励会以外にいないと思ったからだ。これは別におごりとかではないと思う。実際優勝したのだから。
そして奨励会に入った後、みるみる調子で昇級して言った。おかげで勝手に友達視をされている花方を追い抜くスピードで勝って行った。だが、三段リーグ初年度、ぎりぎりで上がれなかった。その時は燃えたよ。強いやつもいるって。だけど、二年目、三段リーグに慣れてしまった。相変わらず来るマスコミや、変な緊張感にも慣れてしまった。その後、俺は連戦連勝して、例の花方と当たった。
その時俺は、もう昇段なんてほぼ確定なんだから彼に勝ちを譲ってやった。だけど、彼は怒っていた。もしかして全力勝負をしたかったのかな、と少しだけ罪悪感を抱いた。
そしてプロになって、最初にどんどんと勝ち進んだ。そして、いよいよ憧れの羽田五冠と対局することになった。その前日、楽しみで眠れなかった。そしてその日、俺は羽田さんに完勝してしまった。その時、手を握り締めた。
そこから何回か羽田さんと対局をした。その時から連戦連敗するようになった。
その時羽田さんすごいとなった。
やっぱり憧れの人だなって。
だけどマスコミが書いていた記事で渡部キラー羽田とか書かれていたのはイラついたが。
そして、俺はひたすらに将棋の勉強をし続けた。すると努力が実ったのか、俺はタイトル挑戦することが出来た。相手は羽田四冠だ。少し年を取って、タイトルを失っては来ているが、それでも強い棋士であることは間違いない。俺は全力でタイトルを取りに行った。すると、あっという間にタイトルが取れた。
羽田さんからタイトルが取れてうれしかった。そしてその勢いで五冠目を取って、俺の実力は将棋界に知れ渡ることとなった。
だけど、そんなある日、燃え尽きた。誰も僕には勝てないのだ。
むなしくなり、もう、将棋という物に対する情熱も、人生に対してもい意気消沈していた。
そして翌日も気分が晴れず、ブランコに乗っていたら、運命の人が現れた。葵だ。最初は笑われて腹が立った。でも、彼女の芯は優しかった。とにかく俺の話に乗ってくれた。
僕はあっという間に彼女のことを好きになった。そしてあっという間に結婚をすることになった。
それから僕の人生はバラ色だった。葵とデートもたくさんしたし、兎に角幸せだった。だが、そんな日々はあっという間に終わった。
俺がタイトルをすべて奪った後、俺は先の目的のなさに苦しんだ。何をしても勝ってしまうという問題にも。今やあんなにあこがれていた羽田さんにもぼろ勝ちしてしまう。
勿論全部の対局で勝てたわけではない。でも、勝率が過去に類を見ないレベルになってしまっていた。
しかもマスコミには天才棋士とおだてられ、色々と取材を受けはじめた。俺は別に天才じゃあないのに。
SNSにも俺への誹謗中傷が増えてきた。(お前がいるから将棋界は面白くない。引退しろ!)(将棋界は汚された! 渡部のせいだ)(絶対渡部が入る前の将棋界の方が面白かった)(渡部くそ)(渡部死ね)(お前に将棋をやる資格なんてねえ)(こんなブス初めて見た)そんな理不尽な批判や、誹謗中傷があふれてきた。心が痛む。俺の存在を否定したい人がいることが。
俺は天才じゃない、他が弱すぎるんだという苦悩に襲われた。もう将棋が差したくなくなった。勝つとわかっている将棋程面白くない物はないのだ。
それから俺は葵に対しても弱音を吐くようになった。
葵に対して、「もう将棋をやめたい」なんてことを言うようになった。
そして俺は羽田さんのアドバイスで将棋をやめた。だが、神様は本当に残酷だ。将棋をやめたら今度は何も将棋の代わりになどならなくなってしまった。
それからはもう何もかもが楽しくなくなった。葵とのデートも、他のゲームもすべてが。悶々としながら生きていかなきゃならないのが辛くなってきた。
もう、死にたいと思うようになってきた。本当に葵には申し訳なく思っている。葵と一緒にいて楽しめなくなっていることが。だけど、もうそれが俺の運命だったんだなと、諦めるようにった。
だけど、葵が「死んでいいよ」と行った時、俺は思わず、葵ありがとうと思ってしまった。元々雄太からも言われてたことだ。だが、死ぬことは葵にも愛にも葵の中にいる赤ん坊にも迷惑がかかる行為だという事は分かっている。でも、僕はこの世から去りたかった。この世から消えたかった。
そして僕は葵に「行ってきます」と言って、自殺をした。正確にはこれを書いている段階では自殺をしていないから、これからするというのが正解か。
これを読んでいる頃にはもう僕は死んでいるだろう。だが、僕の人生は葵のおかげで明るいものになった。感謝している」
それを見て皆川は思わず涙が止まらなくなった。なぜ、天は天才に苦難を与えるのだろうか。なぜ、こんな。
「主人のために泣いてくれてありがとうございます」


