そして、数日後、僕は葵を呼んだ。
一人でこんなに悩んで眠れない日々を過ごしている僕の事を、今も葵は心配してくれている。
そんな彼女に黙っていることは僕にはできない。
今の率直な僕の気持ちを。
僕は、言わなければならないのだろう。
たとえそれが、葵を苦しめるものだとしても。
「なあ、一ついいか?」
僕は思い切り息を吸う。
言うのが怖いんだ。
葵が傷つくのを見るのが怖いんだ。
ただ、最近は葵としか会っていない。葵にしかこの心の闇は話せない。
「雄太に言われたんだ。死にたいんだろって」
その言葉は僕にとって事実を突きつける嫌な言葉だった。
「僕がまだ生にしがみついているのは葵がいるからって。
……僕は、死ぬべきなのか、あれからずっと迷っている。ただの気の迷いだったらいいんだけど。……ごめん、こんなことを言って。葵を困らせるだけだよな」
そう、謝罪を入れる。葵の顔はどうやら困惑の一文字を表している。
そうだ。もし今の葵が僕の立場だったら、まさにどんな表情をしたらいいのか分からないだろう。
「なあ、葵。教えてくれ。僕はどうしたらいいんだ。僕は、葵が好きだけど、葵には悪いんだが、」
言うのが怖い。葵に失望されるのが怖い。
「葵は将棋の代わりには慣れていないんだ。というよりも、僕がまだ将棋にしがみついてしまっているんだ。僕は、将棋の代わりになるものを探してきた。でも、見つからないんだ。葵が進めてくれたものも、申し訳ないが、代わりにはなれていない」
葵が僕のためにいろいろとやってくれていたのは知っている。だからこそ、今言っている言葉が大変心苦しい。
花と遊ぶのも楽しい。YouTubeもゲームも小説も楽しい。でも、終わればまた虚無感に襲われる。
だから将棋を指そうと思う。
でも、将棋盤の前に座ると、どうしても怖くなるんだ。それは、オンラインでの将棋も一緒だ。僕は将棋を指すという行為自体に忌避感を覚えている。
「僕は将棋しかできなかった、僕は、将棋ほど面白いものなんて知らないんだ。だからこそ、僕は今生きるための悦びをたまにしか感じられないようになっているんだ」
そう、それは、葵にとって侮蔑の言葉だろう。
僕の妻になるという選択をしてくれた葵に対して何と不誠実なのだろうか。
「僕を罵ってくれてもかまわない。僕は今ダメ人間だ。そう、僕は、君がいながら幸福を享受できない人間なんだ」
もう、葵と暮らす資格なんて、もはやないのかもな、とも思ってしまう。
「ねえ、勇人君って馬鹿なの?」
突如そう言われ、びっくりする。
「そんなこと言われなくてもわかってたよ。でもあなたは愛してない訳じゃないんでしょ? じゃあ、貴方は悪くないじゃない。これは勇人君のせいじゃない。運命のせいだよ」
「運命のせい……」
「そう、天才に生まれてしまったが故の悩みでしょ?」
運命のせいは考えたことがなかった。すべて自分のせいにしてしまっていたんだ。
だからこそ、辛くなっていただけなのか。
そう思ったら乾いた笑いが口から出た。
「そうだよな。そうなんだよな」
そう思ったら、何もかもが馬鹿らしく思えてきた。
僕を苦しめるものは敵だ。そう、マスメディアも、SNSも、神様もすべてが敵だ。
僕は、僕は、僕は。僕は真っ当に行きたかっただけだ。
「ふふふふふふふ、ふははははは、そうだよ。そうじゃないか。僕は、僕はあ!」
「ねえ、どうしたの?」
気づけば、その葵の言葉で我に戻っていた。葵の顔を見ると、動揺しているらしかった。
「すまない。僕は今まで何をしていたんだ?」
「笑ってた。自嘲のような笑い」
「そうか……」
僕は何をしているんだろうな。今までも僕は今のような自嘲めいた笑いを、狂ったような笑いを何度もしてきた。そのたびに、葵に迷惑をかけてきていたのだ。
僕は結局脳裏に浮かんでいる自殺したいというだめな欲望を葵に伝えられなかった。
自殺なんてだめに決まっている。葵や愛を置いて逃げることをきっと誰も許してはくれないだろう。
だけど、この世から解脱したいなという気持ちはずっとずっと持っているのだ。
それからという物、毎日悪夢を見るようになった。
そして、朝起きたら毎度毎度、笑ってる。寝ながら笑っているって葵に言われた。
今の僕は、壊れているのだろうか。いや、元からそうだった。僕は毎日終わるのを、夜寝る時間を楽しみに生きているのだ。
一人でこんなに悩んで眠れない日々を過ごしている僕の事を、今も葵は心配してくれている。
そんな彼女に黙っていることは僕にはできない。
今の率直な僕の気持ちを。
僕は、言わなければならないのだろう。
たとえそれが、葵を苦しめるものだとしても。
「なあ、一ついいか?」
僕は思い切り息を吸う。
言うのが怖いんだ。
葵が傷つくのを見るのが怖いんだ。
ただ、最近は葵としか会っていない。葵にしかこの心の闇は話せない。
「雄太に言われたんだ。死にたいんだろって」
その言葉は僕にとって事実を突きつける嫌な言葉だった。
「僕がまだ生にしがみついているのは葵がいるからって。
……僕は、死ぬべきなのか、あれからずっと迷っている。ただの気の迷いだったらいいんだけど。……ごめん、こんなことを言って。葵を困らせるだけだよな」
そう、謝罪を入れる。葵の顔はどうやら困惑の一文字を表している。
そうだ。もし今の葵が僕の立場だったら、まさにどんな表情をしたらいいのか分からないだろう。
「なあ、葵。教えてくれ。僕はどうしたらいいんだ。僕は、葵が好きだけど、葵には悪いんだが、」
言うのが怖い。葵に失望されるのが怖い。
「葵は将棋の代わりには慣れていないんだ。というよりも、僕がまだ将棋にしがみついてしまっているんだ。僕は、将棋の代わりになるものを探してきた。でも、見つからないんだ。葵が進めてくれたものも、申し訳ないが、代わりにはなれていない」
葵が僕のためにいろいろとやってくれていたのは知っている。だからこそ、今言っている言葉が大変心苦しい。
花と遊ぶのも楽しい。YouTubeもゲームも小説も楽しい。でも、終わればまた虚無感に襲われる。
だから将棋を指そうと思う。
でも、将棋盤の前に座ると、どうしても怖くなるんだ。それは、オンラインでの将棋も一緒だ。僕は将棋を指すという行為自体に忌避感を覚えている。
「僕は将棋しかできなかった、僕は、将棋ほど面白いものなんて知らないんだ。だからこそ、僕は今生きるための悦びをたまにしか感じられないようになっているんだ」
そう、それは、葵にとって侮蔑の言葉だろう。
僕の妻になるという選択をしてくれた葵に対して何と不誠実なのだろうか。
「僕を罵ってくれてもかまわない。僕は今ダメ人間だ。そう、僕は、君がいながら幸福を享受できない人間なんだ」
もう、葵と暮らす資格なんて、もはやないのかもな、とも思ってしまう。
「ねえ、勇人君って馬鹿なの?」
突如そう言われ、びっくりする。
「そんなこと言われなくてもわかってたよ。でもあなたは愛してない訳じゃないんでしょ? じゃあ、貴方は悪くないじゃない。これは勇人君のせいじゃない。運命のせいだよ」
「運命のせい……」
「そう、天才に生まれてしまったが故の悩みでしょ?」
運命のせいは考えたことがなかった。すべて自分のせいにしてしまっていたんだ。
だからこそ、辛くなっていただけなのか。
そう思ったら乾いた笑いが口から出た。
「そうだよな。そうなんだよな」
そう思ったら、何もかもが馬鹿らしく思えてきた。
僕を苦しめるものは敵だ。そう、マスメディアも、SNSも、神様もすべてが敵だ。
僕は、僕は、僕は。僕は真っ当に行きたかっただけだ。
「ふふふふふふふ、ふははははは、そうだよ。そうじゃないか。僕は、僕はあ!」
「ねえ、どうしたの?」
気づけば、その葵の言葉で我に戻っていた。葵の顔を見ると、動揺しているらしかった。
「すまない。僕は今まで何をしていたんだ?」
「笑ってた。自嘲のような笑い」
「そうか……」
僕は何をしているんだろうな。今までも僕は今のような自嘲めいた笑いを、狂ったような笑いを何度もしてきた。そのたびに、葵に迷惑をかけてきていたのだ。
僕は結局脳裏に浮かんでいる自殺したいというだめな欲望を葵に伝えられなかった。
自殺なんてだめに決まっている。葵や愛を置いて逃げることをきっと誰も許してはくれないだろう。
だけど、この世から解脱したいなという気持ちはずっとずっと持っているのだ。
それからという物、毎日悪夢を見るようになった。
そして、朝起きたら毎度毎度、笑ってる。寝ながら笑っているって葵に言われた。
今の僕は、壊れているのだろうか。いや、元からそうだった。僕は毎日終わるのを、夜寝る時間を楽しみに生きているのだ。


