僕は何を言ってるんだ!! と言い返したくなったが、声が不思議と出なかった。
のどの調子も悪くないのに。
僕は慌てて自分の喉に腕をやる。
「そう言う事なんだよ。お前は死にたいんだ。何も言い返さないことが何よりのその証左だよ」
僕は死にたいのか?
分からない。
「俺は、死にたいのなら死んでもいいと思うぜ」
「そんなことできるわけがない。僕は、葵を愛してるから」
「はは、惚気話かよ。お前は本当にあの人のことが好きだな」
「ああ、好きだ」
僕を絶望の底から救ってくれた人だからだ。
そこから、話は僕の死ではなく、葵の話になった。
俊太は馴れ初めなどを聞いてきてうざかった。
そんな中僕の脳裏は葵の思い出ではなく、死というワードが相変わらず流れてた。
そして、話が落ち着いたタイミングで、葵たちを呼んだ。
SIDE葵。
勇人君に呼ばれ、寝ている愛ちゃんを抱っこしながら、客間へと向かう。
「勇人君の妻の葵です。そしてこちらは娘の愛ちゃんです」
そう、軽い自己紹介をする。
「君が葵さんか。勇人は君を本当に愛しているようだ」
そう、あっけらかんと飯田さんが言うものだから驚いた。
「俺から感謝を言いたい。勇人を支えてくれてありがとう」
唐突なありがとうに「ど、どういたしまして」と、たどたどしく言った。
なんだか照れちゃう。
「恥ずかしいからやめてくれ」
勇人君はそんな飯田君の口をふさぎに行く。
照れているのは私だけではなかったようだ。
「勇人、別に君の不都合になることは言ってないだろ」
「恥ずかしいんだよ」
「まあ、いいだろ。とりあえず、君には秘密の話をしたい。勇人は一旦下がっててほしい」
「おい、口説くつもりじゃ」
「ねえよ。俺はそんな軽薄な人間じゃない。さて、いいだろ? 勇人」
「仕方ないな」
そして、私は飯田君と、二人きりになった。勇人君が「何かあったら言えよ」と言って去っていく。
「君に一つ言いたいことがある。……君は勇人の精神状態をどう思っている?」
単刀直入に切り込んできた。勿論私が今まで思っていたことだ。
「俺は思うんだ。勇人は、死にたいんじゃないかって」
その言葉に私の頭は真っ白になった。まさか、そのような言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。死にたい、死にたいとは言っていたけど、本当に思ってるなんて。
「こういうことを言えば自殺幇助になるかもしれない。でも、僕は彼は死にたいけど、死ねない状態なんじゃないかと、あいつと話してて思ったんだ。あいつがいまだに死んでない理由は葵さん、あなたがいるからだ」
「それは……私が悪いという事ですか?」
「いや、そうとは言わない。ただ、彼の意思は尊重してほしいという事だ。彼をサポートしながらだが、勇人がもし死にたいと口にしたら、止めないで楽にさせてほしいんだ」
「私に、彼が死ぬ助けをしてほしいってこと?」
「ああ」
あっさりとした口調だ。彼の友達とは思えない。
「それは、彼に死んでほしいという事ですか?」
「いや、俺は自殺という行為を悪いものとして見てほしくないという事を言いたいんだ」
彼の言う事も少し道理が通っている。安楽死制度は日本にはないが、海外では部分的(病気で苦しんでいる人たちのためが大半だが)取り入れられている国もある。
自殺は完全に悪なる行為という訳では無い。
自殺という行為を、選択肢の一つに入れてほしいという事だろう。
「私は、彼に死んでほしくない。でも、その時が来たら考えるわ」
私はそれでも自殺が是とは思えない。
だって、それは私を含めて多くの人を悲しませる結果になるのだから。
勿論それは私の我儘だろう。
でも、私は少なくとも勇人君に自殺なんてしてほしくない。
「……そう言ってくれて助かる」
そして、彼は家を出て行った。
飯田君は自殺肯定者なのだろうか。
なんだか色々とありすぎて思考がごちゃついてる。
頭が少し痛くなってきた。
私が勇人君の部屋に行くと、
「なんていわれたんだ?」
そう、勇人君が私に向かって言う。それに対して私は笑顔で、「内緒」と、答えた。
正直もう体がだるい。
「花ちゃんをお願い」
私はそういってベッドに倒れ込んだ。
SIDE渡部
僕にはあれから僕の思考が一切合切分からない。僕は、死にたいのか行きたいのかさえ分からなくなった。
僕は、葵が好きだけど、葵は将棋の代わりになりえない。
葵には申し訳ないが、今の僕は将棋の化身が将棋という中身を失った抜け殻みたいなものだろう。
もはや、将棋以外の楽しみがその場しのぎのものだ。
YOUTUBEも、ゲームも小説も戦略的には少し面白いところがあるが、少し慣れたらもうただの作業になる。
それ以降は皆を楽しませるための義務感で動いている。
ああ、楽になる方法はあるのだろうか。
あいつは、死んだら楽になれると言っていた。
だけど、僕には葵と愛がいる。僕には家族がいる。彼女たちを悲しませるわけには行かない。
でも、僕は果たしてそれでいいのだろうか。
そう考えると、生きているのも義務感によるものなのだろうかと、また分からなくなってしまう。
僕はいつか結論を出さないと行けないのかもしれない。
これからの人生に関する結論を。
そう、僕は花の遊ぶ姿を見ながら思った。


