天才棋士との結婚――そして苦悩

「子作りしましょう」

 それからしばらくたった日、私はそう勇人君に提案した。

「急だな」


 そう、流行りのヒューマンドラマ系の小説を読んでいた勇人君がそう返事をした。
 勿論理由がある。
 第一の理由はもちろん、勇人君との子どもを作りたいから。
 でも、もう一つ理由があるのだ。

 それは、勇人君に新たな生を与えるためだ。
 勇人君は将棋を引退して暇そうにしている。
 そんな彼に、父親としての新たな人生を作ってあげたい。
 人間、暇な時が一番精神を病むのだから。

「子作りって、意味わかっっているのか?」
「え?」
「僕が知ってる知識は、その」

 勇人君は急激に顔を赤らめて行った。
 恥ずかしいのだろうか。

「大丈夫だよ。子どもを作ることにエロいも何もないよ。ただ二人でセックスするだけ」

 私は元気に言った。

 子作りをするという事は、私の中に精子を送り込み卵子と出会わせるという事。
 一般的に言うセックスという行為だ。

 私は、今まで様々な男子と暇つぶしに付き合っていたことはあるが、そのいずれも性行為には至っていない。
 つまり、勇人君が初めての相手という事になる。

 恐らく、というか確実に勇人君もそう言う行為はしたことが無いだろう。

「そう。でも少し待ってほしい。勇気が出ない」
「もちろん分かってるよ」

 そんなの、どちらの意味でもハードルが高い。
 性行為をするという意味でも、子どもを作るという意味でも。

「でも、一言だけ。私は子どもを作りたい」
「分かってる。……ずるいな」
「え、なんて?」
「何でもない」

 勇人君はまた顔を赤らめてしまっている。

 なんだか、その顔かわいいな。

 そして勇人君は、そっと、部屋を移動した。
 恥ずかしいのだろう。
 追いかけたくなるけども、食事の用意をしなくちゃ。

★★★★★

 急に子作りをしたいと言われても困る。
 僕は将棋しか指していなかった。世間知らずの男だ。
 けれど、子作りの意味は知っている。
 言葉を出すにもはばかられる言葉だ。

 葵は気軽にセックスなんて言ってきたが、せめて性行為にとどめていて欲しい。
 僕には刺激が強すぎる。
 それに生き生きとしている葵は可愛かった。

 僕が照れてしまうくらいに。
 子どもか、と僕は思う。
 恐らく子供が生まれたら、僕の人生は大変なものになるだろう。

 でも、僕は将棋を失って、もう人生がつまらなくなっていた。
 葵には悪いけど、人生に張りが無くなっていたんだ。

 確かに、葵の言う通り、子どもを作るべきだな。そう思った。
 後は、性行為のハードルだけの問題になってくるけども。

 僕は葵のことが好きだ。その葵との子どもを作れるなんて、理想的な事だと思う。
 でも僕は、子どもが出来た時にちゃんと愛せるかどうかわからない。

 葵にそのことをちゃんと言わなきゃ。



「葵」

 勇人君が翌日話しかけてきてくれた。
 昨日のは暗視だろう。
 真剣な目をしている。

「葵、僕には子供を愛せるのかどうか、分からない」
「うん」
「だから……」

 そう言って顔を伏せる勇人君。
 まさかそこが不安になってたの?
 でも、確かに子どもって我儘だから不安だよね。
 最近、虐待とかそう言うニュースもあるもん。
 大体そう言うのの原因は子どもを愛せなかったからなんだけど。

「大丈夫だよ。私には勇人君はそんなことないと思う。勇人君はいいお父さんになると思うよ」
「でも、僕は、将棋だけに打ち込んできたから、親という物がよくわからないんだ」

 勇人君は片親だし、将棋にだけ打ち込んできたからか、正しい家族の形を味わっていない。
 でも、

「だからこそ、子ども作ろうよ。勇人君には家族の暖かみを知ってもらいたいし何より、勇人君に家族の暖かみを感じて欲しいもん」
「暖かみか」

 そう言って勇人君は唇を尖らしながら、上を見た。
 考え事でもしてるんだろう。

「分かった。子供産むよ」
「分かった。なら、ベッドに行こう」
「気が早すぎない?」
「こういうのって善は急げって言うから」

 せっかく勇人君がノリノリになってくれているのに、この期を逃すわけには行かない。
 私は勇人君を連れて寝室まで急いで走った。

「それじゃあ、私初めてだから、優しくしてね」
「僕もうやり方わからないよ」
「それじゃあ、ゆっくりやろう」

 そして私たちは不慣れながら、一緒に性行為をした。
 なんだか、彼と繋がれたような気がして少しうれしい気がした。
 勇人君は優しく、私に痛みが痛みが生じないようにしてくれた。
 おかげで痛みなんてものはなかった。
 これで、子どもが出来たらうれしいし、出来なくても、根気よく続けて行けばいつかは出来るものだ。
 それに、排卵日の前だから妊娠確率は高いはずだ。

「ふう、疲れた」

 琢磨君は、私の上に馬乗りになりながらそう言った。

「うん。私も」
「これで子供が出来るかな」
「できるよきっと。そしたらパパだね」
「慣れないな。……それを言ったら葵もママだな」
「そうね。今から慣れる練習をしなきゃだね、パパ」
「違和感がすごいな」
「それは私も思ってる」

 でも、これで私たち夫婦は新たな一歩を歩く事が出来た。

 そしてそれからも、妊娠が発覚するまで、二人で性行為に励む日々が過ぎていく。