天才棋士との結婚――そして苦悩


 「なあ、葵!」

 葵は行く日も行く日もいじめを受けていた。

 「お前は俺の子供だ、何度も言うが、その意味は分かっているんだよな」
 「……」
 「俺の言う事は絶対だからな」

 そう言った父は葵の手をガシッとつかみ、そのまま股乗りをした。
 葵にはわかっている。これから父親である佐渡川隆が何をするのかを。
 そう、もう何度も、何度も暴行を受けてきたのだから。

 隆は葵の肌を撫でた。
 気持ち悪いと思ったが、今の葵に抵抗などできない。

 そして、隆が葵の肌をひとなめする。
 葵はぞっとした。
 
 葵は、じっと、耐え続ける。

 そして脱出の隙を伺う。
 今日こそは、今日こそは。
 葵はもう決めている。
 殺してやると。

 手は縄によって拘束されていない。
 父親は自分を舐めているのだ。
 所詮子供。何も抵抗できないと。
 だけど、その瞬間、葵は勢い隆の顔を蹴り飛ばした。

 そして葵は台所に走り、包丁を手にした。

 「おい、何をするんだ?」

 隆は叫ぶ。だが、その声はもはや葵には届かない。

 「いやあああああああ」

 葵は叫びながら包丁を持ってツッコむ。

 本来なら少女の力で突き刺せるほど甘いものではない。
 だが、その時の葵はもはや怒りに満ちた化け物だった。
 戸惑う隆に対し、葵は一気に包丁を胸に、勢いよく、そして躊躇無く指す。
 その一撃で命は奪えなくとも、隆の体力を奪った。

 人間は血が出ると力が出なくなる。

 血が抜けた父親にはもう葵の包丁を防ぐ手はずは無かった。
 そして、力なき一撃も数撃喰らわせると、強大な一撃となり、その命を奪った。
 だが、葵の怒りはそんなものでは収まらない。

 猛力をなくした死体を次々に刺して行く。
 葵の体に血が飛び散った。だが、怒りはそれだけでは収まらなかった。

 最終的に、惨殺死体が出来上がる結果となった。

 「体を洗わないと」

 葵は冷静にそう呟いた。

 体が汚いままでは気持ちが悪い。

 「でも、私はやったんだ」

 あの、気持ちの悪い父親を殺せたのだ。
 でも、今の気分は最悪だ。
 人を殺してしまったのだ。
 今にも、佐渡川隆の恨むような声が聞こえてくる。

 しかも、葵にはちゃんと殺人はやってはいけない事と認知していた。

 その後、数日間何もなかったかのように学校に登校した。
 何もなかったかのように。平穏な日々の一ページかのように。

 数日間は、葵の殺人が発覚することは無かった。
 だが、数日着。ついに事件が発覚した。佐渡川棋王が対局場に来なかったのだ。

 そして家に電話がかけられた。その電話には葵が出た。

 そして、そのタイミングで家に警察が入り込み、事件が発覚した。
 そうして調べていくと、葵の体に傷が見つかったことによって、虐待も発覚した。

 そして、罪に問われることもなく、施設に入れられることとなった。
 未成年の子供で、しかも情状酌量の余地があったからだ

 その後、葵は施設で育ち、14の時に子無しの家族に拾われることとなった。


 そして、中二の時に、美晴に出会った。
 美晴と葵はすぐに意気投合することとなる。
 理由は様々あるが、一番の理由としては、趣味の合致だ。
 当時二人とも同じ漫画が好きだったこともあり、漫画の話で盛り上がった。

 そして、葵は彼氏を作りまくった。
 葵は可愛かった。それに、男子にこびるという行為が上手かった。
 そのため、ある日はサッカー部部長。
 ある日は野球部のエース。ある日は、大学生と。

 そんな中、葵はビッチだと言われるまでになった。
 だが、彼女は決して、性行為に励むことは無かった。
 あくまでも、性での恋愛ではなく、恋愛としての恋愛を重視したのだ。
 葵は父親にそのような行為を受けていた。それもあり、怖かったのだ。
 他の人に身を任せるという行為が。

 その行為がいつの間にか親友の顰蹙(ひんしゅく)を買っているとは知らずに。

 だが、そんな恋愛の中で葵を本当の意味で悦ばせる人などいなかった。



 その時葵は思った。意味のない恋愛なんていらないと。
 だが、そんな中、渡部勇人と、一緒に暮らすようになったのは幸運と言えよう。
 何しろ、葵が一番苦手な職業に就く人ながら、いい人だったのだ。
 それこそ、職業だけで判断するのをやめようと思えるくらいには。

 そしてそんな中、この人となら性行為してもいと思えるくらいには。