純白のゼラニウム

「雪〜!おはよ!お、あの子雪のこと見てるよ?さすがモテるね〜」
「おはよ。やめてよ菜奈。私恋愛とか興味ないもん。」
「えぇ〜。雪ならすぐ恋人できそう」
「そういうのいいから。菜奈、こっち向いて。まつ毛になにかついてる。」
「おお!ありがと!」
 私の机に頬杖をつき話し始める、天真爛漫で可愛い友人、菜奈。彼女とは入学後すぐに仲良くなり今に至る。
彼女は恋バナが大好きで、私の恋バナも収集したいらしいのだが、あいにく私は恋愛にさほど興味がない。話の流れ的にノリを合わせて私も恋人が欲しいなどと口にすることはあるが、特に思っているわけでもなく、仲いい子の会話に水をささないようにしているだけである。菜奈は成績は良い方ではないが運動神経抜群で、その小柄な見た目からは想像できない動きをやってのける。誰とでも仲良くなれるトーク力の高さも尊敬できるポイントだ。無駄に身長だけ高くなって運動神経の悪い私とは大違いだ。
「ねえねえ、雪はこの高校来る前はカレシとかいたことないの?」
「ないよ。」
「あんなにモテるのに!?」
「別にモテてないよ。」
「嘘だー!!私見てたんだからなー!入学式の日!」
 そうだった。彼女との出会いは1年前、入学式の日、私が中学の頃の同級生に告白されているところを見られたところから始まったのだった。

「相原さんのこと、中学の時から気になってて…同じ高校に入学できるように頑張ったんだ。俺と付き合ってくれませんか…!」
 まるで映画のような、入学式後の桜舞う校舎裏で彼はそう言っていた。
彼は私と同じ高校に入学できるように頑張ったと言っていた。どうして一時の感情に任せて大切な進路を決めてしまったのか、私の存在がそうさせてしまったのかと後悔が押し寄せた。
だがしかし、好きでもないのに付き合うのは相手にも自分にも失礼なのではないか。付き合ったら好きになれるのだろうか。もし好きになれなかったらどうしたらいいのだろうか。それが私にはとても怖いことに思えた。
だから私は彼にごめんなさいと一言零すことしかできなかった。
彼はその後何も言わずに立ち去ってしまった。
「ねえねえ、めっちゃイケメンじゃん!なんでふったの!?あ、私同じクラスの愛瀬!愛瀬菜奈(あいせ なな)!」
後ろから興味津々といった様子で飛び出してきたのが菜奈だった。
それからしばらく話し、私達は教室内の席が前後だったこともあり、すぐに仲良くなった。

 そんなことを思い出していると、突如チャイムが鳴り響いて我に返った。今日から高校2年生になる私達は、これからどんな経験をするんだろう。密かに胸を躍ったが、入学式以降空いた一つの机が視界に入り、少しだけ気持ちが重くなった。