【試用】信用スコア政策

 買い物はすぐに終わった。事前に滝森さんは必要な商品に関してスマホにメモをとっていたようだ。また、効率よく取れるようにエリアごとに必要な商品を分けて記録していた。それはまさに主婦の知恵とでもいうべきものだった。

 目当ての商品を取り終え、残すは会計のみ。僕たちはセルフレジへと並んだ。お昼間際のレジは混んでいた。

「新田くん、大丈夫?」

 滝森さんの心配する声が聞こえた。僕は踏ん張りながら彼女へと返答する。

「だ、大丈夫……」

 掠れ声だった。腕はすでに限界を迎えていた。それもこれも全て滝森さんに男らしいところを見せようと強がった自分の責任だ。

 カートを使わずにカゴだけ持って買い物に臨んだのはかなりの汚点だった。滝森さんに「結構買うよ」と言われたのに、それを過小評価しすぎた。カゴは冷蔵庫に入れるものと入れないものの二つに分けられている。それぞれのカゴには溢れんばかりの量の食料品が乗せられていた。

「本当にたくさん買う予定だったんだね」

「来週の平日分の食料だからね。朝昼夜と15食分かな」

「毎週こんなに買っているの?」

「そうだね。自炊の方が安いから、家庭的にはこっちの方が助かるんだ。荷物を持つのは、その分の労働ってところかな」

 家事だけではなく、食事まで作っているなんて彼女は立派な主婦だった。とてもじゃないが、僕には真似できないなと思ってしまった。それに毎週これだけの量を家まで持って帰っているようだ。見かけによらず、力持ちらしい。そのギャップがまた堪らないわけだが。

 ようやく僕たちの番が回ってきた。僕は最後の力を振り絞って、セルフレジのカゴを置くところに二つのかごを置いた。長時間の負荷のかかっていた両腕がようやく解放される。僕は思わず脱力した。

「ふふふっ。会計は私がやっておくから休んでて」

 滝森さんはハンガーの入ったバッグともう一つの折り畳みバッグを取り出すとバーコードを通し始めた。いつもやっていることだからか手際がいい。彼女がバーコードを通している間、僕は腕をマッサージしつつもスマホを握りしめ、電子決済のアプリを開いた。

 商品を全て通し終え、合計金額が算出される。大体5千円程度だった。僕はスマホを取り出した滝森さんに声をかける。

「滝森さん、会計は僕がやるよ」

「えっ!?」

 滝森さんは驚いた様子でこちらを見る。無理もない。この金額を高校生である僕が肩代わりするのはおかしな話だ。

「あ、言葉が足りなかったね。実は僕、信用スコア政策の社会クラスが6なんだ。だから購入した商品を2割引で買えるんだ。だから僕の電子決済で済ませて、払った分の金額だけ送金してもらおうかなって。職権濫用みたいにはなるかもだけど、少しは滝森さんの力になれるかなと思って。その……金欠って言ってたから」

 滝森さんは呆然とこちらを見る。僕はそこでハッと気づく。

「もしかして、滝森さんも社会クラスが6だったりする?」

 あり得る話だ。統一テストの際には591ポイントだったのだ。数週間経った今、600ポイント代になっていてもおかしくはない。

「うんうん。私の信用スコアは594ポイント。まだギリギリ6には届いていない。そっか、新田くんは社会クラス6なんだね……じゃあ、お言葉に甘えて会計お願いしてもいいかな」

 ゆっくりと笑顔を見せる滝森さん。彼女の表情につられて僕までも笑顔になってしまう。

「うん、もちろん」

 僕は彼女の期待に応えるように自分のスマホで会計を行った。滝森さんはその間にバッグを取り出し手に持った。

「別れるまでは僕が持つよ?」

「うんうん、気にしないで。新田くん、さっきので疲れただろうから後は私がやるよ。会計してもらった恩もあるしね」

「わかった。ごめんね」

「謝らなくて大丈夫だよ。次はちゃんとカート使って買い物しようね」

 滝森さんの言葉に鼓動が高鳴った。『次は』ということは、もしかしてまた買い物を一緒にしようということなのだろうか。意図的な行為、それはデートのお誘いと捉えていいのだろうか。

「う、うん。そうするよ」

 期待を飲み込み、平静を装って返答をする。滝森さんは相変わらず笑顔を絶やすことなく、こちらを覗く。会計を終えると僕たちは出口へと足を運んでいった。胸のドキドキはしばらく収まることはなかった。