暗闇の中、小さなスクリーンの光だけが灯る。
僕は全身の気が抜けたように椅子の背もたれに大きく体重をかけ、天井を仰ぎ見ていた。
木曜日に休んでから一週間が経過した。その間、僕はひたすらパソコンに向かって文字を叩いていた。ようやく書きたかったことを全て書き切った。必死にキーボードを叩いていた状態から我に帰ると、全身にどっと疲労が押し寄せてきた。
虚ろな目を動かし、掛け時計へと目をやる。針は19時を示そうとしていた。
言うことの聞かない体を無理やり起こすとカーテンを開ける。日は落ち、外は真っ暗となっていた。ほんの少し雨が降っているのか窓ガラスに水滴がちらほらついている。
カーテンを下ろし、再び机に戻るとスマホを手に取る。画面を見ると、母親からメッセージが来ていた。この一週間、僕は部屋の戸に鍵をかけた状態でずっと過ごしていた。木曜、金曜までは体調不良を訴え、休ませてもらっていた。だが、今週に入って流石にその手は使えなかった。無断欠席を繰り返したことで先生から母親に連絡があり、母親は僕に対して疑問を投げかけた。あまり頭が働いていなかったこともあり、解決方法を見出せなかったため無言で部屋の鍵を閉め、時間を稼ぐこととした。幸い、母親は時間が解決してくれると思ったのか、チャットでメッセージを送りつつ、ご飯だけは部屋の前に置いておいてくれた。こんな僕に対して最後まで気にかけてくれたのは本当に感謝しかない。だけど、ごめん母さん。
他の通知内容に目をやる。母親と話しただけで他の人たちとは完全に接点を切っていた。滝森さんからの連絡はなかった。彼女の問いかけを無視し続けているのだから無理もないだろう。あとは、RIGからも連絡が来ていた。
最初はレアアイテムゲットの旨の報告が来ていた。だが、僕が二三日放置していたことで心配に思ったのか『大丈夫? 何かあった?』との連絡のあと『おーーい、大丈夫か?』と続いていた。毎日ログインしているカルぺ・ディエムを一週間ログインしていなかったら流石に心配にもなるだろう。
RIGぐらいには最後に別れの挨拶をしておこう。僕は久しぶりにカルペ・ディエムを開いた。毎日コツコツためていた『連続ログインボーナス』は消え、最初からやり直しとなってしまった。しかし、もうやることのないアプリだから問題はない。
RIGとのチャットに移行し、メッセージを送る。
『久しぶり。ちょっと色々あってログインできなかった。それから多分もうログインはしないと思う。だから最後にお礼を言いたくて。今まで楽しく話してくれてありがとう。RIGと一緒に話せてすごく楽しかった。俺はやめるけど、RIGはこれからも強くなってくれよな。じゃあ、さようなら』
先ほどまで遺書を書いていたからだろうか。案外スラスラと言葉を書き連ねることができた。
メッセージを送信し、アプリを終了する。これでやることはあと一つ。
部屋の外に出ると廊下の隅にお皿に乗ったおにぎりがあった。母が作って置いておいてくれたみたいだ。最後にこれだけは食べようとおにぎりを掴み、口へと入れる。今までは美味しいとしか思わなかったおにぎりだが、今回ばかりは違った。母の作った料理をもう食べられないと思うとなんだかとても悲しくなり、目尻から涙が溢れてきた。だが、泣くにはまだ早い。勢いよくおにぎりを口へ頬張る。案の定、食堂に詰まったが、胸を叩くことでなんとか流すことができた。
「ごちそうさま」
人知れず言葉を口ずさむ。両手を合わせ、丁寧に合掌まで行った。人生に別れを告げる儀式と言わんばかりに。
階段を降り、キッチンへと足を運ぶ。家族は今日も全員仕事で家には僕だけしかいなかった。引き出しをあけ、お目当てのものを探すとすかさずポケットに入れた。
そのままの足で玄関へと足を運ぶ。「さようなら」と口ずさみ、一週間ぶりに外へと出た。
外は肌寒かった。雨が影響しているのか、冬が本格的に近づいてきたのかはわからない。戻って、上着を羽織ろうと思ったがやめておいた。
僕は傘も刺さず歩き始める。ほんの少しの雨なら我慢できるだろう。
歩きながら、最後の役目を果たすためにスマホを開き、メッセージを送る。
宛先はもちろん、滝森さんだ。
『久しぶり。今から河川敷で会えたりする?』
メッセージを送ると幸運にもすぐに既読がついた。
『うん。わかった』
そう二言述べ、後のメッセージは続かなかった。
続きは河川敷で。僕は少し足を早め、ヒカルのいた河川敷へと向かっていった。
僕は全身の気が抜けたように椅子の背もたれに大きく体重をかけ、天井を仰ぎ見ていた。
木曜日に休んでから一週間が経過した。その間、僕はひたすらパソコンに向かって文字を叩いていた。ようやく書きたかったことを全て書き切った。必死にキーボードを叩いていた状態から我に帰ると、全身にどっと疲労が押し寄せてきた。
虚ろな目を動かし、掛け時計へと目をやる。針は19時を示そうとしていた。
言うことの聞かない体を無理やり起こすとカーテンを開ける。日は落ち、外は真っ暗となっていた。ほんの少し雨が降っているのか窓ガラスに水滴がちらほらついている。
カーテンを下ろし、再び机に戻るとスマホを手に取る。画面を見ると、母親からメッセージが来ていた。この一週間、僕は部屋の戸に鍵をかけた状態でずっと過ごしていた。木曜、金曜までは体調不良を訴え、休ませてもらっていた。だが、今週に入って流石にその手は使えなかった。無断欠席を繰り返したことで先生から母親に連絡があり、母親は僕に対して疑問を投げかけた。あまり頭が働いていなかったこともあり、解決方法を見出せなかったため無言で部屋の鍵を閉め、時間を稼ぐこととした。幸い、母親は時間が解決してくれると思ったのか、チャットでメッセージを送りつつ、ご飯だけは部屋の前に置いておいてくれた。こんな僕に対して最後まで気にかけてくれたのは本当に感謝しかない。だけど、ごめん母さん。
他の通知内容に目をやる。母親と話しただけで他の人たちとは完全に接点を切っていた。滝森さんからの連絡はなかった。彼女の問いかけを無視し続けているのだから無理もないだろう。あとは、RIGからも連絡が来ていた。
最初はレアアイテムゲットの旨の報告が来ていた。だが、僕が二三日放置していたことで心配に思ったのか『大丈夫? 何かあった?』との連絡のあと『おーーい、大丈夫か?』と続いていた。毎日ログインしているカルぺ・ディエムを一週間ログインしていなかったら流石に心配にもなるだろう。
RIGぐらいには最後に別れの挨拶をしておこう。僕は久しぶりにカルペ・ディエムを開いた。毎日コツコツためていた『連続ログインボーナス』は消え、最初からやり直しとなってしまった。しかし、もうやることのないアプリだから問題はない。
RIGとのチャットに移行し、メッセージを送る。
『久しぶり。ちょっと色々あってログインできなかった。それから多分もうログインはしないと思う。だから最後にお礼を言いたくて。今まで楽しく話してくれてありがとう。RIGと一緒に話せてすごく楽しかった。俺はやめるけど、RIGはこれからも強くなってくれよな。じゃあ、さようなら』
先ほどまで遺書を書いていたからだろうか。案外スラスラと言葉を書き連ねることができた。
メッセージを送信し、アプリを終了する。これでやることはあと一つ。
部屋の外に出ると廊下の隅にお皿に乗ったおにぎりがあった。母が作って置いておいてくれたみたいだ。最後にこれだけは食べようとおにぎりを掴み、口へと入れる。今までは美味しいとしか思わなかったおにぎりだが、今回ばかりは違った。母の作った料理をもう食べられないと思うとなんだかとても悲しくなり、目尻から涙が溢れてきた。だが、泣くにはまだ早い。勢いよくおにぎりを口へ頬張る。案の定、食堂に詰まったが、胸を叩くことでなんとか流すことができた。
「ごちそうさま」
人知れず言葉を口ずさむ。両手を合わせ、丁寧に合掌まで行った。人生に別れを告げる儀式と言わんばかりに。
階段を降り、キッチンへと足を運ぶ。家族は今日も全員仕事で家には僕だけしかいなかった。引き出しをあけ、お目当てのものを探すとすかさずポケットに入れた。
そのままの足で玄関へと足を運ぶ。「さようなら」と口ずさみ、一週間ぶりに外へと出た。
外は肌寒かった。雨が影響しているのか、冬が本格的に近づいてきたのかはわからない。戻って、上着を羽織ろうと思ったがやめておいた。
僕は傘も刺さず歩き始める。ほんの少しの雨なら我慢できるだろう。
歩きながら、最後の役目を果たすためにスマホを開き、メッセージを送る。
宛先はもちろん、滝森さんだ。
『久しぶり。今から河川敷で会えたりする?』
メッセージを送ると幸運にもすぐに既読がついた。
『うん。わかった』
そう二言述べ、後のメッセージは続かなかった。
続きは河川敷で。僕は少し足を早め、ヒカルのいた河川敷へと向かっていった。



