階段を降りながら、僕は『マイクレジット』のアプリを見ていた。
現在の僕のポイントは632。加藤と羽田さんの一件があったが、特にポイントの増減はなかったようだ。
あくまで推測に過ぎないが、今回の件における真偽はデータ上では真に近いものがあるということだ。もし、僕がメッセージで送っていたことが虚言だとAIが判断していれば、少なからず僕の信用ポイントは下がっていただろう。
だが、それが起こっていないということは僕が真実を言っていたのか、それともAIが収集できていないデータがあって判断がつかないのかどちらかになる。
ひとまず、加藤への復讐は果たせたと言っていいだろう。あとは、予防線を売っておくのみ。次はいよいよ滝森さんだ。
ただ、その前に真実を知る必要がある。僕は加藤の言ったことを100%信じているわけではない。多少なりとも僕を脅すために嘘をついている可能性は否めないからだ。だからこそ、本人から直接引き出す必要がある。
建物内は閑散としており、僕の足音が反響して聞こえてくる。コツコツという靴音は心地いいものだ。この心地よさには悪者を退治できた優越感も含まれているだろう。
自分のクラスの階に辿り着き、廊下を歩く。廊下の静けさとは打って変わって、裏庭や運動場からは騒音が響いていた。運動部の熱血さが僕は苦手だ。
「それで、新田とはどうなの?」
教室に入ろうとすると、不意にそんな声が聞こえてきた。自分の名前を呼ばれたことでカクテルパーティ効果が働いたのだろうか。前に出た足を止め、ゆっくりと後ろに戻す。壁に身を潜め、教室内での話に耳を傾けることにした。
どうしてそんな事を行なったのか。その発言者が鬼頭だったからだ。鬼頭が教室で僕の話題を出すということは、おそらく相手は滝森さんに違いない。
「新田くんと?」
二言目にして、僕の推察は正しいことがわかった。
「最近すごく仲良さそうにしてたからさ。何かあったのかなーと思って」
僕は内心ドキドキしながら二人の話を聞いていた。もしかすると、滝森さんの本音を今ここで聞けるのではないかと思ったのだ。
「新田くんとは特に何もないよ……」
「またまたー。恵さんはお見通しだぞ。新田のこと正直どう思ってるのさ?」
「んー、そうだな。勉強でわからないところがあったらすぐに教えてくれたり、困ってたら手伝ってくれたりと私のために何かしてくれるところはすごく感謝してる」
滝森さんの言葉に胸が熱くなるのを感じた。やはり彼女は加藤と連むような人じゃない。
「でも…………私には合わないかな……。やっぱり、最初に恵に行った利用するような関係かな……」
だが、次の言葉で僕の中の幻想は打ち砕かれた気がした。
「合わないとは?」
「だって……っ……勉強の説明しているときにチラチラと私の方を見てきたり……少し近づいただけで顔を赤くして女性慣れしてなかったり……」
胸の高鳴りが止まらない。最初はトキメキからきていたものだが、今は全く違う。自分の中の彼女の理想像がどんどん崩れ去っていくのを感じた。胸の中では止まることができない不穏な気持ちは息となって体外へと出る。
癖になるように何度も何度も息を大きく吸っては吐く事を繰り返した。繰り返しに影響して心臓は張り裂けそうなくらい大きく鼓動を打つ。やがて、息だけでは収まり切らなくなってきて、思わず口を押さえる。
「小さいことでも気にかけて何かしてあげた感を出したり……正直……」
このままでは自分が犯されてしまう。そう思い、ゆっくり足を後ろへと下げ、距離を取るとそのままの勢いで廊下を走っていった。
廊下に僕の大きな靴音が響き渡る。
近くにあったトイレへと入ると、洋室へと籠る。口の中に溜まった汚物を勢いよく、水の中へと吐いた。一回で収まることはなく、それから何度か汚物を吐くことでようやく精神が安定する。
大きく息を吸い、呼吸を整える。口の中に広がる汚物はヌメっとしており、すぐにでも水で流したいほど下が拒絶反応を起こしていた。
とはいえ、水筒は教室にある。トイレの水を飲むのは流石に気が引ける。しばらくはこのままの状態が続くだろう。
便器へと腰をかけ、脱力するように顔を点へと向けた。
どうやら、僕の不安は正しかったみたいだ。ずっと味方だと思っていた滝森さんはずっと僕の敵だったのだ。今まで彼女に対して浮かれていた自分が非常に許せなくなった。
よく考えればわかった話だ。滝森さんみたいな可憐で優美な人間が好意的な感情だけで、僕に対してあそこまで優しく接してくれるわけはない。何か裏があるとどうして思えなかったのだろうか。僕という人間はつくづく救いようがない。
加藤たちから受けたいじめを遥かに凌駕する程の苦痛がのしかかっていた。
自分を保護するような発言ではあるが、加藤たちのいじめを受け、精神力はかなり向上していたように感じていた。数ヶ月先の未来に希望を持ち、我慢することはそこまで苦痛ではなかった。ただ、今まで信用していた想い人に裏切られるというのは、どれだけ精神を鍛えていたとしても、決して避けようのないほどの大きな傷を生んでしまうみたいだ。
今の僕にはもはや生気は残されていなかった。
しばらく脱力しながら天井を仰ぎ見る。時計を覗くと2時間が経過しようとしていた。もうそろそろ出ないと校舎が閉まってしまう。
便器を流し、再び教室へ赴くと誰も居なかった。自分の席へと赴き、水筒に入ったお茶を飲む。口の中が綺麗さっぱりな状態となった。普通なら、気分が良くなるはずだが、耐え切れないほどの苦しみの前では無力なものだった。
カバンを肩にかけ、教室を後にしようとする。その時、ふと滝森さんの机が目に入った。
「……滝森……」
僕は彼女の名前を呟くとまるで磁石で惹きつけられたかのように彼女の机へと歩いていく。目を見開くと、勢いよく机を蹴った。
空の机が大きな音を立てて床に倒れる。それに構うことなく、今度は足裏で机を踏み続ける。絶対に許さない。絶対。一心不乱に机を踏み続けた。
やがて我に帰り、挙げた足を元に戻す。
「滝森 静。僕は君を絶対に許さない」
拳を握りしめ、彼女をどのように貶めるかそれに全力で脳を動かす。無残な様子を見せる滝森さんの机を戻すことなく僕は教室を後にした。
現在の僕のポイントは632。加藤と羽田さんの一件があったが、特にポイントの増減はなかったようだ。
あくまで推測に過ぎないが、今回の件における真偽はデータ上では真に近いものがあるということだ。もし、僕がメッセージで送っていたことが虚言だとAIが判断していれば、少なからず僕の信用ポイントは下がっていただろう。
だが、それが起こっていないということは僕が真実を言っていたのか、それともAIが収集できていないデータがあって判断がつかないのかどちらかになる。
ひとまず、加藤への復讐は果たせたと言っていいだろう。あとは、予防線を売っておくのみ。次はいよいよ滝森さんだ。
ただ、その前に真実を知る必要がある。僕は加藤の言ったことを100%信じているわけではない。多少なりとも僕を脅すために嘘をついている可能性は否めないからだ。だからこそ、本人から直接引き出す必要がある。
建物内は閑散としており、僕の足音が反響して聞こえてくる。コツコツという靴音は心地いいものだ。この心地よさには悪者を退治できた優越感も含まれているだろう。
自分のクラスの階に辿り着き、廊下を歩く。廊下の静けさとは打って変わって、裏庭や運動場からは騒音が響いていた。運動部の熱血さが僕は苦手だ。
「それで、新田とはどうなの?」
教室に入ろうとすると、不意にそんな声が聞こえてきた。自分の名前を呼ばれたことでカクテルパーティ効果が働いたのだろうか。前に出た足を止め、ゆっくりと後ろに戻す。壁に身を潜め、教室内での話に耳を傾けることにした。
どうしてそんな事を行なったのか。その発言者が鬼頭だったからだ。鬼頭が教室で僕の話題を出すということは、おそらく相手は滝森さんに違いない。
「新田くんと?」
二言目にして、僕の推察は正しいことがわかった。
「最近すごく仲良さそうにしてたからさ。何かあったのかなーと思って」
僕は内心ドキドキしながら二人の話を聞いていた。もしかすると、滝森さんの本音を今ここで聞けるのではないかと思ったのだ。
「新田くんとは特に何もないよ……」
「またまたー。恵さんはお見通しだぞ。新田のこと正直どう思ってるのさ?」
「んー、そうだな。勉強でわからないところがあったらすぐに教えてくれたり、困ってたら手伝ってくれたりと私のために何かしてくれるところはすごく感謝してる」
滝森さんの言葉に胸が熱くなるのを感じた。やはり彼女は加藤と連むような人じゃない。
「でも…………私には合わないかな……。やっぱり、最初に恵に行った利用するような関係かな……」
だが、次の言葉で僕の中の幻想は打ち砕かれた気がした。
「合わないとは?」
「だって……っ……勉強の説明しているときにチラチラと私の方を見てきたり……少し近づいただけで顔を赤くして女性慣れしてなかったり……」
胸の高鳴りが止まらない。最初はトキメキからきていたものだが、今は全く違う。自分の中の彼女の理想像がどんどん崩れ去っていくのを感じた。胸の中では止まることができない不穏な気持ちは息となって体外へと出る。
癖になるように何度も何度も息を大きく吸っては吐く事を繰り返した。繰り返しに影響して心臓は張り裂けそうなくらい大きく鼓動を打つ。やがて、息だけでは収まり切らなくなってきて、思わず口を押さえる。
「小さいことでも気にかけて何かしてあげた感を出したり……正直……」
このままでは自分が犯されてしまう。そう思い、ゆっくり足を後ろへと下げ、距離を取るとそのままの勢いで廊下を走っていった。
廊下に僕の大きな靴音が響き渡る。
近くにあったトイレへと入ると、洋室へと籠る。口の中に溜まった汚物を勢いよく、水の中へと吐いた。一回で収まることはなく、それから何度か汚物を吐くことでようやく精神が安定する。
大きく息を吸い、呼吸を整える。口の中に広がる汚物はヌメっとしており、すぐにでも水で流したいほど下が拒絶反応を起こしていた。
とはいえ、水筒は教室にある。トイレの水を飲むのは流石に気が引ける。しばらくはこのままの状態が続くだろう。
便器へと腰をかけ、脱力するように顔を点へと向けた。
どうやら、僕の不安は正しかったみたいだ。ずっと味方だと思っていた滝森さんはずっと僕の敵だったのだ。今まで彼女に対して浮かれていた自分が非常に許せなくなった。
よく考えればわかった話だ。滝森さんみたいな可憐で優美な人間が好意的な感情だけで、僕に対してあそこまで優しく接してくれるわけはない。何か裏があるとどうして思えなかったのだろうか。僕という人間はつくづく救いようがない。
加藤たちから受けたいじめを遥かに凌駕する程の苦痛がのしかかっていた。
自分を保護するような発言ではあるが、加藤たちのいじめを受け、精神力はかなり向上していたように感じていた。数ヶ月先の未来に希望を持ち、我慢することはそこまで苦痛ではなかった。ただ、今まで信用していた想い人に裏切られるというのは、どれだけ精神を鍛えていたとしても、決して避けようのないほどの大きな傷を生んでしまうみたいだ。
今の僕にはもはや生気は残されていなかった。
しばらく脱力しながら天井を仰ぎ見る。時計を覗くと2時間が経過しようとしていた。もうそろそろ出ないと校舎が閉まってしまう。
便器を流し、再び教室へ赴くと誰も居なかった。自分の席へと赴き、水筒に入ったお茶を飲む。口の中が綺麗さっぱりな状態となった。普通なら、気分が良くなるはずだが、耐え切れないほどの苦しみの前では無力なものだった。
カバンを肩にかけ、教室を後にしようとする。その時、ふと滝森さんの机が目に入った。
「……滝森……」
僕は彼女の名前を呟くとまるで磁石で惹きつけられたかのように彼女の机へと歩いていく。目を見開くと、勢いよく机を蹴った。
空の机が大きな音を立てて床に倒れる。それに構うことなく、今度は足裏で机を踏み続ける。絶対に許さない。絶対。一心不乱に机を踏み続けた。
やがて我に帰り、挙げた足を元に戻す。
「滝森 静。僕は君を絶対に許さない」
拳を握りしめ、彼女をどのように貶めるかそれに全力で脳を動かす。無残な様子を見せる滝森さんの机を戻すことなく僕は教室を後にした。



