【試用】信用スコア政策

 日は沈み、空はすっかりと黒く染まっていた。ちらほら見える星の輝きに心を打たれていた。その輝きが汚れ切った僕の心を綺麗にしてくれると思ったのだ。そんな訳ないのだが。

 とはいえ、心は落ち着きを取り戻した。かれこれ1時間以上、僕は歩道でしゃがみ込んでいるのだ。全て時間が解決してくれるということを実感した気がした。

 流石にこれ以上この場所に居座るわけにはいかない。体を起こし、両足で立つと石垣の上に手を乗せ、静かに登っていった。

 ヒカルの居場所が今どうなっているのか。それだけは見ておきたいと思った。

 芝生の上を歩き、河川敷に隣接する道路を渡るとそのままゆっくり下降する。もういないだろうとは思うが、万が一のために注意を払いながら橋の下の方へと目を向けた。

 予想通り誰もいなかった。誰もいないというよりは何もなかったという表現が正しい。

 僕は状況が分かると橋の下まで全速力で走っていった。凸凹した芝生の上は走りにくく、途中足を挫くと体勢を崩し、芝生の上で倒れた。荷物は宙を舞い、斜め前の方へと放り出される。鈍い音が河川敷に響き渡った。

 僕は芝生の草を力強く握りしめると、自分の体を持ち上げる。地球の重力が何倍にもなったかのように体は非常に重く感じた。

 それでも、立ち上がり、ヒカリのいた橋の下へと歩いていく。

 自分の顔から地面に垂れる雫。それは、汗なのか涙なのか僕には分からなかった。

 橋の下へと辿り着き、あたりを見渡す。

 昨日までいたはずのヒカリはおろか、先ほどまであったはずの段ボールも毛布も何もかもなくなってしまっていた。

 最初から何もなかったかというように段ボールのあった場所には草木が茂っている。

 その光景を見て、僕の視界は歪み始めた。どんどん視界がぼやけていく。ようやく僕は流れる雫が自分の涙であることに気づいた。

 嘘だと信じたい。全てが夢だと思いたい。明日起きて河川敷に来るといつものようにヒカルが元気に段ボールから顔を出してくれると思いたい。

 だが、涙を拭うときの手が顔に当たる感触は自分が現実世界にいるのだと突きつける。

「ヒカル………ヒカル……ヒカル…ヒカル」

 僕は何度も名前を繰り返す。名前を呼ぶことでヒカルが戻ってきてくれると思いたかった。たとえ戻ってこなかったとしても、僕とヒカルの過ごした数ヶ月は忘れまいと、必死に自分に訴えかけた。

 やがて、涙の影響で声が様にならなくなる。濁った声はしゃべった本人も『ヒカル』という言葉に聞き取れないほどだった。

「くそっ! 僕のヒカルを返せ! あいつら絶対に許さない!」

 腑が煮え繰り返る。沸騰した怒りは身体に止まることなく、外気へと放出していく。それらは僕のエネルギーとなり、地面の芝生を撒き散らした。僕の周辺の芝生はみるみるうちに土に埋め尽くされていく。

 やがて、怒りが止まると僕は自分の靴についた土を凝視する。いつもの僕なら、『何をやっているのだろう』と正気に帰っていただろう。だが、今の僕は全くそれを感じていなかった。加藤たちの心も撒き散らされた芝生のようにぐちゃぐちゃにしてやりたいと思ったのだ。

 足を後ろに向け、最後にもう一度強く地面を蹴った。衝撃であたりに土が散開する。悲惨な様に僕は何も感じることはなかった。

 その日、僕は彼らに『復讐』することを決意した。